Turn Me Loose, I'm Dr. Feelgood6
コダラとイサラと俺がいれば、
一本でいいと言われていた
謁見が終わったすぐ後に、マッキャノの大将軍が樽一杯の
それぞれにいつかこういう日が来ると思って集めていたのだろうか、そこそこ貴重だという
『荒れ地のフーよ、どうかお願いできないか?
『父祖の代からの悲願なのだ!』
普段の俺なら、偉い人たちにそこまで言われれば仕方がないと、マッキャノとの関係を考慮して首を縦に振っていたかもしれない。
だが今の俺の隣には、そういう話をバッサリ断ってしまう女が立っていたのだ。
『嫌よ。そんな話は聞いていないもの』
椅子に深く腰掛け、組んだ足をゆらゆらと揺らしながら、ハリアットは将軍たちにそう告げた。
将軍たちも大首領の娘には強く出られないのか、大汗をかきながらなんとか食い下がっていた。
『しかし、ハリアット様……』
『フーは忙しいの。新婚なのよ』
新婚とは言うが、別に何をするわけでもない。
俺はまだ十歳だし、彼女は十二歳だからだ。
だが、その言葉は同族には効果覿面だったようだ。
将軍たちはたじたじになって去って行き、俺は鍛冶をする間に寝泊まりするため貸し与えられた居室で、彼女とお茶を飲んでゆっくりとした時間を過ごした。
『ハリアットはさ……』
『何かしら? それと、あなたには特別に私を愛称で呼ぶ事を許してあげるわ』
『じゃあ……リア』
『名前のそこを取るの? 変なの。南蛮の方はみんなそうなのかしら?』
彼女はそう言って、なんだか楽しそうに目を細めて笑った。
『リアはさ、これから荒野に行くわけだけど大丈夫?』
急に結婚が決まって良かったのか、なんて事はいちいち聞かない。
こっちの世界じゃあ、親が子供の結婚を決めるのはごくごく普通の事だからだ。
もちろん、ウマが合わず夫が妻を家に帰したり、妻が実家に帰ったりする事も普通にあるけど。
『侍女たちが話していたのだけれど、あなた荒野と草原を繋ぐ商会を作ったんですって?』
『まあ、なし崩しにだけど』
『その商会でこちらの物が手に入るなら、大丈夫じゃないかしら。でも私、お茶とお風呂がない場所は嫌よ』
『では、君のお茶と風呂はこのフーシャンクランの責に置いてなんとかしよう』
お茶は仕入れられるし、風呂の水ぐらいは作れない事もない。
地元を離れてタヌカンに来てくれるのだ、できる限り願いは叶えてあげたかった。
『あとは……つまらない場所じゃなければ、なおいいのだけれど。聞く限り、あんまり楽しい場所じゃなさそうよね』
それに関しては、俺も大いに憂慮しているところだ。
『これから面白くなるように発展させていくさ』
『あらそう』
期待しているともしていないとも言わず、彼女は優雅にお茶を飲み、こう続けた。
『とりあえず、あなたの食事とお茶は私が面倒を見てあげる』
その言葉は意外だった、貴人の婦女子はそういう手が汚れるような仕事はしないのかと思っていたが……
『どんな英雄でも、毒を盛られたら死んでしまうのだもの。口に入れる物には気をつけないと』
なるほど、貴婦人であるからこそ、逆に一番大事な部分を自ら取り仕切るという文化なのか。
『当代のラオカンなんて呼ばれてるあなたが、ラオカンと同じように身内に盛られた毒で死んじゃったら芸がないでしょう?』
そう言って、お茶を飲んでいるだけで一枚の絵になりそうな彼女は、十二歳とはとても思えない妖艶さで笑ったのだった。
翌日から、俺の部下である
材料となる
ちなみに乙女の髪を貰おうと思ってリアに頼んでみると、彼女は『贅沢な剣ね』と言いながら櫛で梳いた時に抜けた黒髪を少しだけくれた。
マッキャノ族が使う
乳歯なんかは手に入らないから、鳥の嘴と塗料の原料で代用する。
そうしてできた
「フシャ様、こりゃあタヌカンで作ったのとちょっと違うぞ。緑じゃなくて青色だ」
「タヌカンのは
「失敗したら、そこで見てる奴らに執り成してくれよ?」
「それぐらいならいくらでも」
そんな事を言う彼の周りには、国中の鍛冶職人が集まってきているんじゃないかというぐらい、大量の見学者がいた。
鍛冶場を借りる時から『見学させてもらう』とは言われていたし、そもそも
錬金術師がいれば作れるという事が伝わったからには、これからは彼らの手でどんどん作っていく事になるはずだ。
「あぶねぇからあんま近寄らないように言ってくれ」
『見るのはいいが、距離を取って見てくれ。鍛冶の邪魔になる』
俺がそう言うと、コダラの手元を覗き込むようにしていた鍛冶師たちが少しだけ首を引っ込めた。
『鍛冶場を出入り禁止にしたほうが早いわよ』
リアがぽつりとそう言うと、まるで潮が引くように鍛冶師たちが三歩下がった。
さすがはお姫様だ、発言力が違う。
これでコダラも仕事をしやすくなっただろう。
『ねぇ、ずっとここで見ているつもり?』
『あ、いや……あとはコダラに任せるつもりだけど』
『じゃあ買い物に行きましょうよ、あっちにないものは買っていったほうがいいでしょう?』
『ああ、そうしようか』
結局、コダラが
ツトムポリタという町と彼女という人間について、少しだけ詳しくなる事ができたのだった。
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風邪ひくとコーラがうまい
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