Emerald Sword11
読みにくくてごめんなさい。
反省したので今後あんまこういうのはやらないようにします。
エメラルド・ソード編は次で終わりです。
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「フシャサマ」
「フシャサマ コンニチワ」
「カルル フシャ イロイル ヴァグナ」
俺とイサラが牢部屋に入ると、男二人は片手を上げてこちらに挨拶し、婆さんは「剣なんか持ってどうした?」と尋ねてきた。
一から覚えたマッキャノの言葉も、我ながらよくここまでわかるようになったものだ。
「ユーラ ナ ヴァグナ」
この剣を見ろと伝え、俺は小さい腕を必死に伸ばして剣を引き抜いた……
そして薄緑色の燐光を放つそれを見た三人は、唖然とした顔で固まっていた。
「チヨノ……ヴァグナ?」
「ジュダヴァグナ? チヨノヴァグナ?」
「やはり、そう見えるか」
ならば良し、だ。
俺がぎこちない手付きで剣を戻そうとしていると、見かねたイサラが受け取って鞘に戻してくれた。
やはり十歳の手足では腰に吊った剣を扱うのは難しいな。
「フシャサマ トント ラオカン」
「ラオカン?」
マッキャノ族の男から、聞き慣れない言葉が出たので聞き返すと、男は興奮した様子で「ラオカン トント ラオカン!」と繰り返すばかり。
そればかりでは困ってしまう。
説明してもらえないかとロゴス婆さんを見ると、彼女は呆けたような顔で、こちらに手を合わせていた。
「フシャ ミーディ ピグリム。フシャ ウィトタラケン ラオカン。ラオカン ユタ グリジ、イロイル チヨノヴァグナ、ルトス ルブラ チヨノ」
「フシャ様、この者はなんと……?」
イサラが聞くが、知らない単語が多くて俺にもほとんどわからない。
「俺は宝……俺はラオカンかもしれない……ラオカンは何かが黒く……チヨノヴァグナを持ち……金色が……なんとかって言ってるな」
結局、ラオカンってのは何者なんだ?
気になるところではあるが、もうじき夕暮れが来る。
詳しく聞いている暇はなさそうだった。
「ロゴス婆さんたちには色々勉強させてもらった。世話になったよ。マステク」
マッキャノの言葉で端的に礼を述べると、彼らは片膝立ちになって合わせた手を上げた。
「フシャ トゥラ ピルム」
「マステク」
婆さんに「元気でな」と言われた俺は、もう一度礼を言い、胸を張って牢部屋を出た。
一世一代の大博打だ、せいぜい元気にやってやるさ。
そして、夕暮れはすぐにやって来た。
渓谷の方から合図の狼煙が上がったのを確認し……
荒野が真っ赤に染まる中を、俺と十名ほどの騎士は堂々と馬に跨って城の正門を出る。
俺はそこまで馬の操いが達者ではないため、イサラの鞍の前に座っていた。
そんな俺の頭の上から彼女の金髪が垂れてきたかと思うと、同時に心配そうな声も降ってきた。
「やはり、フシャ様が直接行かれる事はないですよぅ……」
「いい加減にしてくれよ、俺以外にマッキャノ族の言葉がわかる奴がいるか? 今回は敵の心を攻める策だ、喋れなくては務まらんよ」
未だに俺を降ろそうとするイサラの腕をポンポンと叩く。
この陽動の要は、敵を砦に釘付けにすることだ。
城から敵を煽るという事も考えたが、そうすると敵が城に取り付き、父の部隊は城へ帰れなくなる。
だから俺は、最低限の時間を粘るための人員だけを伴い、余の者に希望を託し城へ残したのだ。
錬金術の素材は全て薬に変え、非戦闘員はキントマンに任せた。
後は、俺がしっかりやるだけだ。
気合を込めて一息に腰の剣を抜こうとしたが、上手く抜けず……ジタバタともがくようにしながら、なんとか抜いた。
露わになった剣身からは、暗くなり始めた荒野を照らすように薄緑色の光が放たれ、周りの騎士たちが少したじろぐ。
「フシャ様、その剣は……」
「目立つ剣だろう? 陽動にはうってつけだ、なぁ。さぁイサラ! 拡声魔法を使え!」
「……わかりましたよぅ」
妖精が彼女の剣に纏わり付き、剣が燐光を放ち、振動し始めた。
「よし……ゆっくりと近づくぞ。まずは口上で時間を稼ぐ」
馬がゆっくりと砦に向けて歩き始めると、俺は鞍の上に立ち上がる。
揺れる馬の上だが、速度が遅いのとイサラが腰を抱いてくれたのとで、転がり落ちるような事はなさそうだ。
首を回してボキボキと鳴らし、息を吸い込んで、大声で叫んだ。
『
こうまで言えば、砦のマッキャノ族は俺を無視できず、こちらへ釘付けになるはずだ。
そのはずなのだが……なんだか砦の連中の反応は、俺の思っていた物とは違っていた。
丘の上にある砦に張り巡らされた、二メートル程度の石壁。
その上から顔を出した敵兵は、憤慨するでもなく、弓を射掛けるでもなく……ただこちらを見て、呆気に取られているようだった。
しばらくの間、こちらの馬の歩く足音だけが荒野に響いた。
砦の連中がどんどん集まって壁の上から顔を出す中、一人のマッキャノ族がようやく口を開いた。
「
やはり、牢で三人の捕虜に見せた時と同じで、マッキャノ族にとってこの剣は無視ができない物のようだ。
まぁ、尋ねられたならば答えてやろう。
『
喉も枯れんばかりにそう叫ぶと、砦全体にどよめきが広まった。
壁の上にはどんどん人が増え、身を乗り出しすぎてこちら側に転がり落ちた者までいた。
「ラオカン」
「ラオカン トント ラオカン!」
「グリジュタ! ルブラ チヨノ!」
マッキャノ族は俺の事を指差し、口々にそんな事を言う。
ラオカンというのが何なのかがますます気にかかったが……今大切なのはそこじゃあない。
砦の向こうからは、父の部隊が近づいて来たのであろう土煙が見え始めている。
俺たちの仕事は、とにかく砦の連中を釘付けにする事だ。
そのためならば、敵の口から出た言葉にでもなんでも、乗っかってやればいい。
『
高らかにそう叫ぶと、なんだか敵は腰が引けたようにたじろいだ。
もしかして、
「ラオカン……」
「ミーディ ラオカン……」
口上を述べながらも馬はだんだん砦へと近づくが、なぜか矢の一本も飛んではこない。
弓を構えている者もいるが、どうも彼らは俺が持つ
まぁ、俺だって別に死にたいわけじゃない。
相手にやる気がないのなら、それはそれで結構だったのだが……
「
敵の一人が上げたその声に、こちらに釘付けになっていたマッキャノ族たちが一斉に振り返った。
やはり、口上だけで乗り切るのは無理か。
『砦に取り付け!』
鞍に腰を下ろした俺がそう言うと、騎士たちは砦のある丘へと疾走し始めた。
『イサラ、近づいたら俺を壁の向こうへ投げろ』
「駄目ですよぅ」
『いいからやれ!』
「騎士使いの荒い若様だよぅ」
そうぼやきながら、イサラは鞍の上に中腰で立ち上がった。
そして俺を抱きかかえ、馬の上から跳躍して砦の壁を飛び越えた。
『っ……
敵地のど真ん中、俺はイサラの拡声の魔法を解かぬまま、決死の覚悟でそう声を張り上げて叫んだのだが……
予想に反して、周りを取り囲む兵たちから、俺に向けて剣が振るわれる事はなかった。
なぜかマッキャノ族は皆、こちらに向かって片膝立ちになり、合わせた手を上げていたのだ。
『
わけがわからないが、今更ビビっているわけにはいかなかった。
ここまできたら、死んでもやり切るしかないのだ。
俺が半ばヤケクソにそう叫ぶと、人垣を割って一人の男が俺の前へとやって来た。
それは、他の者となんら変わる事のない装備をつけた、威風堂々とした隻眼の男だった。
「アステル ラオカン。
彼に、その先の言葉はなかった。
俺が渾身の力で振り抜いた
赤から黒に染まり始めた地面に血がばたばたと飛び散り、落ちた首が転がると、その近くにいたマッキャノ族は恐れ慄いて退いた。
血に塗れて、暗く濁りながらも光を放ち続ける剣。
燐光を放つ半透明のその剣身に、藍色に染まり始めた空を宿そうとするエメラルド・ソードは、なるほど不思議と紺碧色に見えない事もなかった。
俺はそれを天高く突き上げ、今日一番の大音声で叫んだ。
『
正直なところ、何百人からいる相手にこんな脅しが通じるとは思っていなかった。
俺は父の部隊が城の近くに来るまで、一秒でも長くマッキャノ族を引き付けられれば、それで良かったのだ。
城の兵を温存し、詭弁を弄し、敵を惑わし、怒りを買えるだけ買って、引き裂かれて、死ぬ。
それで終わる運命のはずだった。
そこにまさか、敵の将らしき男を道連れにできるなどとは思ってもみなかった。
きっと、これ以上を望めば罰が当たるだろう。
だが、そう思いながら剣を構え、死を待つ俺の前に……
なんと彼らは、手に持っていた武器を投げ出したのだった。
「
「ラオカン!
「はぁ?」
「ルブアルク
ルブアルク?
「グリジュタ ラオカン! ルトス ルブラ チヨノ! アサプト ルブアルク!」
「グリジュタ ラオカン! ルトス ルブラ チヨノ! アサプト ルブアルク! エーカ! エーカ!」
マッキャノ族のわからん単語とわからん態度に戸惑う中、背後から声がかかった。
「フシャ様! ご無事ですか!」
「騎士八名! ここに揃いました!」
『よく来た! イサラ! もういいぞ!』
後ろからずっと俺の声を拡声してくれていたイサラが剣を引き、俺を庇うように前に立った。
二名欠けた騎士も俺を守るように展開し、剣を構える。
「やれるだけやろう! 突き崩せ!」
「おおっ!」
「突撃ぃ!!」
と、俺たちは全員で一塊になって突っ込んだのだが……
なぜか反撃してくる者はほとんどおらず、敵はどんどん後ろへと退き始めた。
「ええい! 我らの武威に恐れをなしたか!」
「かかってこい!」
こちらが進めば進むほど相手は退き、だんだん反対側の壁を乗り越えて逃げ出す兵が出始め、ついに数百名のマッキャノ族は総崩れのような状態になって潰走を始めた。
「エーカ! エーカ!」
「グリジュタ ラオカン! ルトス ルブラ チヨノ! アサプト ルブアルク!」
「エーカ!」
たったの十人しかいないこちらに、取るものもの取らず全力で逃げ出すマッキャノ族に、俺たちはいっそ唖然としていた。
周囲から敵はどんどんいなくなっていき、ついには砦はもぬけの殻に。
反対側の壁に行き、騎士に上にあげてもらって敵の行き先を確認すると、どうやら彼らは砦のすぐ近くまで来ていた父の部隊には見向きもせず、そのまま北へと走り去っていくようだ
「逃げちゃったよ……」
「罠?」
「罠で砦明け渡すか?」
「もしかして、フシャ様が倒したのが総大将だったんじゃないか?」
「わからんなぁ……」
まあ、釈然とはしないが、ひとまず危機は去ったのだ。
死ぬはずだったのに、まだ生きている。
敵もなぜか去っていった。
とりあえず、これは勝利と言っていいんじゃないだろうか。
「勝鬨を上げろ」
「え?」
「勝ったんだよ、俺たちは!」
「あ、そうか、そうですよね! じゃあ……せーので……」
そう言うと、騎士たちは顔を見合わせて、呼吸を合わせてから剣を天に突き上げた。
「うおおおおおおおっ!!」
「勝ったぞおおおおお!!」
「マキアノ族不甲斐なああああああし!!」
「フーシャンクラン様が敵将を打ち取り! マキアノを下した!!」
「タヌカンの勝利だぁあああああああああ!!」
「フーシャンクラン様万歳!! タヌカン万歳!!」
「勝った! 勝った! 勝った! 勝った!」
なんだかとっちらかった勝鬨に耳を傾けながら、俺は壁の上で光る剣を誘導棒のように振って父の部隊の到着を待った。
「フシャ様、そんなところにいると落ちちゃいますよぅ」
下から心配性のイサラの声がしたが、俺は力なく首を振った。
安心した途端に急にどっと疲れが来て、足に力が入らなくなったのだ。
ふわっとあくびが出たかと思うと、猛烈な眠気が襲ってきて剣を取り落としそうになった。
「降りて下さいよぅ」
半ば意識が朦朧とした俺のわきにイサラの手が添えられ、壁の上から下ろされた。
いかんなぁ、十歳の身体はやはり無理が利かない……
そんな事を思いながら眠気と戦う俺の元に父がやって来たのは、それからすぐの事だった。
「一体何が起きた? マキアノ族はどこへ行ったのだ」
父がそう聞くと、陽動作戦に加わっていた騎士が隻眼の男の首を掲げ、高らかに答えた。
「申し上げます! フーシャンクラン様が敵将を打ち取り! マキアノ族は恐れをなして逃げ出しました!」
「フーシャンクランが……? その剣は?」
「コダラに打ってもらったんだよ。マッキャノ族の宝剣にこういうのがあるらしくてさ……陽動にいいかと思ったんだけど、効果
「そうか……よくやってくれたフーシャンクラン。お前はタヌカンの誇りだ」
父は俺を抱え上げ、胸の前に抱いた。
「皆! 聞いてくれ! フーシャンクランのお陰で我々は命を繋ぎ、敵兵までをも退けた! だが、まだ砦は残っている! 敵が戻ってくる事のないよう、夜を徹してこの砦を破壊し……」
そんな父の声が響く中、俺の意識はだんだんと遠のき……
低い声を子守唄代わりにして、夢の中へと溶けていったのだった。
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再臨の日、来たれり。
開国の国父。
討魔の英雄。
解放の旗頭。
ラオカン、
ラオカン、忘恩のマッキャノを忘れ、フー・
再び
再び
彼の地に現れし宝成。
大地を統べし大首領成。
ラオカン、大音声にて名乗り、千年将軍ルオラを成敗せむ。
兵どもラオカンの怒りに触れ、直ちに
のち、
北極伝説異聞 第四集
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誰も興味ないだろうけど作者が後で困った時に見るマッキャノ語。(順不同)
デェア(何)
ポラカ(瓶)
ユラック(酒)
ティト(寒い)
キャニパス(良かった)
ウィトタラケン(かもしれない)
ユタ(髪)
グリジ(黒)
グリジュタ(黒髪)
ピグリム(宝)
ミーディ(本物)
カルル(どうしたの?)
イロイル(持っている)
トゥラ(長く)
ピルム(元気)
ユストス(健全)
グラプ(長生き)
ジュタ(~です)
マステク(ありがとう)
セシダンテ(聞け)
ウトゥギル(弱い)
ア(私は)
ヤ(あなたは)
ナ(を)
オン(~さん、~様)
ヘサ(この)
エル(強い)
ハステル(死)
ギーン(勇気)
ハスタ(戦う)
ユーラ(見ろ)
メイクル(鉱物)
ジュダ(伝説)
ルトス(伴う)
ユッカ(作る)
ルブラ(金)
チヨノ(狼)
ヴァグナ(剣)
チヨノヴァグナ(狼の剣、紺碧剣)
トント(まるで)
ウドロ(後ろ)
ユスタ(近づく)
シアン(秘術)
クラン(軍)
ツース(どこ)
ベダマ(将)
トラーズ(出ていけ)
ブル(全員)
ナラカン(わかった)
フーリ(静まる)
ギャゾンベ(怒り)
ルブアルク(呪いの地、悪魔の地)
アサプト(降臨)
エーカ(逃げろ)
アステル(偉大なる)
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