第38話 手帳(一部抜粋)
榊公園はわたしたちの幸せの象徴。
毎年春がきたら、公園そばのパン屋で好きなパンをたくさん買ってもらって、パパとママはコーヒー、志保ちゃんは大好きなコーヒー牛乳、わたしはジュースで、レジャーシート敷いて、桜を眺めながらみんなで食べて、のんびり過ごした。榊公園はそういう場所。
志保ちゃんは、その場所で逝ってしまった。わたしに何も言わず、全部抱えてひとりで逝ってしまった。
事情はだいぶ掴めて、誰が関わってるかは見えたんだけど、で?
ここからわたしはどうしたいんだろう。
問い詰めて、謝らせたら、志保ちゃんのお墓の前で謝ってもらったら、終わりにできるんだろうか。そんなことできるかもわからないし、できたとして、そしたらすっきりできるかもわからない。だって志保ちゃんは帰ってこないもの。
少し事情がわかってきたら、かえって、どうしていいかわからなくなってきてる。わからなかったときは、何が起きたか知りたくて必死だったから、後先考えなくて済んだのに。今は、見えてきたがゆえに、行き止まりで立ち尽くしてるような心境。
わたしのこの怒りとやるせなさは結局、志保ちゃんを追い詰めた知らない誰かにあるんじゃなくて、志保ちゃんが頼ろうと思えなかったわたし自身に対してなんだと思う。自分と志保ちゃんとの関係が結局、関係って言えない一方通行の庇護でしかなくて、それに甘んじてた役立たずな自分に怒ってるんだと思う。だからきっと、今のこのしんどさは、何がどうなっても変わらない。だってこの関係はもはや不可逆的だから。
志保ちゃんはしっかりしてたけど、今思えばちょっと不器用だったよね。だから、同世代の中でももしかしたらちょっと浮いてたのかなって思う。寄宿学校生活は大変だったんじゃないかな。何も聞いたことないから実際のところはわからないけど。わたしたちは突然ふたりっきりの家族になっちゃって、他の子たちとは環境がまるで違うものになってしまった。それで、ふたりともずっと周囲に心を開けないまま今まで来てしまったのかもね。わたしも、今の、うちの高校生たちを見てると、キラキラしてて眩しくて、羨ましくて、時々苦しくなってしまう。
わたしたちにとって、世界は荒野にすぎなかった。
わたしにとって、世界は荒野にすぎない。
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