第20話 透子

美冬の招集で、週明け早々にまた新聞部の部室でランチ。

目黒先生、あたしも苦手、目つきが嫌い。

その目黒先生がくれたっていう封筒には、某水質調査研究所からの伊東美緒様宛の封筒や、地図やデータなんかがはいってて美冬がみんなに回す。


「で、これはどういうことになるの?」


悠はざっと資料に目を通して美冬に聞く。


美冬が地図を広げる。


「これが大野川で、ここが地点A、ここがB、ここがCね。Aの数値は問題なし、Cもなし、でもBだけはほら、シアンの数値が高いの、わかる?」


地図と、封筒にはいってた分析結果の数値を見比べる。


「うん、ほんとだ」


「でね、ちょうどBのこのあたりが、封筒の住所、先生の自宅なの。だから異臭なのか何なのかはわからないけど先生が何かに気がついて川の水を調べてみたのかなって思ってるの」


「この数値ってまずいの?大問題になって誰かが口封じしなければって思うような話なのかな」


「ほら、こっちの資料見て?この数値だと基準値の10倍だから、行政指導とかははいるんじゃないの?わかんないけど工場の操業停止とかになる数値なのかも」


「え、どこの工場の話なの?」


「ごめん、先走っちゃったね、このB地点のほらここ、ここが牧産業の大野工場。ここでは主に塗料とか樹脂製品作ってるみたい。ここからの排水って考えたんじゃないかな、伊東先生。だってほら、地図のここに薄くマークついてる、この工場のところに」


「わ、ほんとだ、え、これってやばい話?よく目黒先生あっさりくれたね」


「うーんでも、牧産業なんてうちの自治体にとっては大事な企業だよ?指導はいったとしてもたいした処分になんてならないと思うし、そんな大事とも思えないんだけどなあ。やっぱりこの線が無関係かどうかもふくめて、ちょっと、牧雪彦に聞いてみないわけいかないかな。でもお父さんの工場の排水とか河川の汚染について聞いたって何も知らないと思うんだけど」


「あ、牧雪彦ってあの美冬のお気に入りの後輩か」


「もう。別にお気に入りじゃないって!とにかく優秀な後輩ってだけだよ。わたしの中での次期部長候補なんだけど、彼と揉めることになったらどうしよ。で、あとは伊東先生の彼氏の話と、いろいろ書いてったって手帳の話も気になってる。つきあってた相手は誰かってのは諸説あるみたいなんだけど夏休みくらいによく二人で歩いてるところ見られてるみたい」


あ、今言わなきゃ言う機会をまた逃しちゃう。


「うん、あたしも見たよ、バイト帰りに二度ほど。伊東先生が二人で歩いてるところ」


「え?なにそれ、で、相手は誰?」


「二回とも千葉先生と、だった」


悠が固まる。

だから、言いたくなかったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る