第16話 恵梨香

新聞部の部室は遠くて運動不足のあたしには疲れるんだけど、でも運動も大事なので、よしとしよう。

お弁当持って半ばふらふらな気分でたどりつくと、もう3人とも来てた。みんな健脚すぎ。


「遅いよ」と美冬がからかってくる。

美冬はいつもあたしの体力のなさをいじるんだけどあたし的には美冬が体力おばけだと思ってる。


お弁当広げて食べるんだけど、なんかみんなが話したくてうずうずしてる感じ。この口火切るのは誰?


「昨日ね、図書室で調べてもらったんだけど、やっぱりあの日、伊東先生わたしと話した後に、その本の予約入れてたの」


悠がトップバッター。


「えーますますなんでって気持ちが強まるね。警察としては調べた結果自殺の線でいくみたいよ」

と、美冬。


悠がむくれる。

「もう、なんで?絶対信じられない。読みたい本がある人は自殺なんてしないって思うんだけどな」


正直、この件の悠のこだわりは共有できないな、そう?いやそんなの人それぞれじゃない?って思う。でも悠にとってはきっとそれは絶対譲れない感情なんだろうな。


「自殺で処理されることになったのはいろんな状況証拠とか一番近い親族として育ての親の叔母さんの聞き取りとかあった上でのことみたいなんだけど、うちの親が言うにはね、お姉さんも小学校の先生してて、自殺されてるんだって」


みんな沈黙のまま顔を見合わせる。重すぎるよこの話。


「びっくりだよね、榊公園で2年前に首を吊って亡くなってるって。この話聞いたことある?」


ない、ない全然ないや。


悠が言う。

「気持ちはわかるよ。メンタルで落ち込みやすいとかって家系とかでそういうのもしかしたらあるのかもしれない、それに今の話だと先生まだ20代なんだし親御さんだってそう高齢でもないはずなのに叔母さんが育ての親だなんて、早くにご両親亡くされたりで苦労なさってきたのかもしれない。だからって、お姉さんが自殺してるってことと、伊東先生個人の死因って、全然関係ないよね?安易に結論出しちゃうのは納得できない」


「だよね、わたしもそう思う。だからやっぱりもうちょっと調べてみる。悠の話聞いて、タイミング的になんだかしっくり来ないのは確かだし」


透子がぽつりと言う。

「あたしたちって、結局先生方のこと何も知らないんだよね。彼らの見せる顔って、教師としての外向けの作った顔なわけじゃない?でも内心はいろいろ抱えてて、生身の人間なんだよね。つい学校でしか先生の顔見ないわけだから、そのことを忘れてしまう」


ちょっとどんよりとした空気。みんなお弁当を食べる手が止まってる。


「ねえ、ちゃんと食べないと昼休み終わっちゃうよー。うちのママ、今、教育委員会の事務方だから、何か知ってるか、聞いてみるね」


そう言って、ミートボールを口に放り込む。甘っ。

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