第11話 美冬

カフェテリアでみんなと話してて思い出した。

比較的にだけど伊東先生に近い人物と知り合いだったこと。


新聞部の部室は北館の三階の端っこ。

2年のクラスからは遠いので行き来するといい運動になる距離。

引き戸を開けると、目当ての人物はもう来てた。


「雪彦早いね」


入り口に背を向けてパソコンをいじっていた雪彦が振り向く。


「美冬先輩も今日は早いじゃないですか」


そう。毎回一番乗りの雪彦と二人で話したくてダッシュできたから若干息上がってる。


「珍しく二番乗りか。ね、雪彦って天文部と掛け持ちじゃなかった?」


この牧雪彦が天文部だったことを思い出したの。

伊東先生のことわたしたちよりは知ってるはず。

牧雪彦はさらさらヘアの小柄な一年生。

この街の有力企業の牧産業の一人息子。


「ええそうですよ、っていっても天文部じゃなくて天文同好会です。

あまり活動してないからほとんどこっちばかりに入り浸ってますけど、

天体ショーが見られるときなんかは不定期で観測会やったり一応ほそぼそとは活動もあるんですよ。ま、会長もあまり熱心じゃないししかも次に会長やれよって言われてて、なんとか逃げ切りたいなとは思ってます。」


「え、それは困るわ、雪彦うちの重要戦力だし」


雪彦は笑った。


「お世辞でも嬉しいですよ美冬先輩。で、天文同好会のことがなにか?」


う、いざ切り出すとなるとなんか無神経になりそうだし難しいな。

言いよどんでしまう。言葉選ばないと。


「うん、あの新聞部部長としての質問なんだけど、雪彦は伊東先生のことどう受け止めてる?

もしこの話題が精神的にきついなら、雪彦のいるところでは避けたほうがいいかなとかも配慮したいし」


彼はわたしの方に向いてた体をまたパソコンのほうに向きなおし、背中越しに答えた。


「大丈夫ですよ、ボクもそんなやわじゃないんで。

とはいえショックすぎてまだ整理できてません。

伊東先生は顧問ですから4月から同好会でも地学の授業でもお世話になってきましたし、もちろん何度も話したこともあります。

ただおとなしい先生だしすごく親しいとかはないんですが、

でもやっぱりショックなのは間違いないです。優しいいい先生でしたよ」


背中向けてるから表情はわからないけど、動揺の気持ちは伝わってくる。


「そうだよね、ショックだよね、

接点がほとんどないわたしだってショックだし学校全体がまだ動揺してるもの」


「ボクむしろ美冬先輩に聞きたいです、何か事情ご存知だったりしませんか?

あと、結局その、事故なのか事件なのかとかの情報とか」


「ごめん、そのあたりのことまだ全然聞けてなくて。

さぐりはいれてみるけど、事件ってことはないんじゃないかな。

いい加減なわたしの主観でしかないけど。

学校に警察関係の人の出入りが激しかったり先生たちが聴取されてたりって感じもないし、事故か、もしかしたら自殺なんてことも考えられるのかも」


「自殺……、それはちょっと信じられないです。

明るい感じの先生ではなかったですけど、でもそれにしても」


雪彦はそのまま黙り込んだ。

そのタイミングで他の子達が部室に来たので話はそこで途切れてしまった。

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