第2話 古巣にて待つ凶報と英雄たち

「中も冒険者だらけだな。今にも戦争が始まりそうな雰囲気じゃないか」


 ギルド建屋を覗き込んでみるとやはり中は予想通りだった。

 ここまで人が集まるのはタダごとじゃない。


 そう察して恐る恐る建屋に入ってみる。


「あーっ! アディンなんですー!」

「おっ!?」


 するとこんな声がする共に小さな塊がフロア奥から跳ねてくる。

 それどころか俺の腹に砲弾のごとく突撃してきた。


「ぐっ!? あ、あいかわらずだなピコッテ」

「アディンが来るなんて久しぶりですよー!」


 ここのギルド名物、肉弾ホビット受付嬢ピコッテ。

 その肉付きと身体能力、異名は未だ健在だな。


 それで彼女を抱えて顔を覗き込むと、パァっとした笑顔に変わった。


「アディンが来てくれたならもう大丈夫ですー!」

「は!?」


 いや待て、俺はまだ何も――


「まさかアディンか!? うおおお!」


 しかし何も確認する間もなく、奥からさらにガタイの良い人影が走ってくる。


「おやっさん!?」

「まさかおめぇが来てくれるとは! フハハハ、これならもはや鬼に金棒よぉ!」


 禿げ頭に深いヒゲ、懐かしい顔だ。ギルドマスター・グレフ。

 若手の頃にずいぶんと世話になったのを思い出す。


「これでもう何の心配もいらないですー!」

「その通りだ! アルバレストさえいりゃどうにもでならぁ!」

「あ、その事なんだが……」


 だが二人を放っておくとどんどん誤解が広がりかねない。

 そこで俺はひとまず二人に軽く事情を説明することにした。


 そうすると案の定、二人とも目を点にしていたわけだが。


「……なんてこった。あの新国王、むちゃくちゃが過ぎると思ったがまさかここまでとは」

「そんな別れ方したらアディンのレベルがペナルティ受けちゃうんですー……」

「どれ……今はレベル42、B級上位なみか。ずいぶんと下がっちまったな」

「仕方ないさ、そこは地道にまた上げていくよ」


 ギルドや冒険者に詳しければまずやらない所業なんだがな。

 王位継承したばかりの新国王様にはそれがわからないらしい。


 ただそれでも俺がフリーになったことに変わりはない。

 なら何か助けになれるはずだ。


「それで何があった? やはり〝塔〟か?」

「ああ。しかもやっこさん、ついには翼を生やしやがった。『魔王級』の出現よぉ」

「な、なんだと!?」


 まさかこのタイミングで塔がそんな変化を示すとは。

 しかし魔王級か。

 以前に仲間たちと共に戦って倒したが、相当な強さだったのが印象深い。


「だが悲しい事に今この国に魔王級をやれるパーティがいねぇ」

「なっ!? 少し前にはA級パーティ〝ターヴュランサー〟がいただろう!?」

「すでに隣国だ。おまけによそで契約してて断るに断れないらしい」


 おやっさんが苦虫を噛み潰したかのように悔しそうにしている。

 タイミングがそれくらいに酷いからな、当然か。


「アルバレストは? 国王にかけあったのか?」

「ダメに決まってるだろうが。お前が知らない時点で察せることだ」

「脅威を払うより式典が大事か、クソッ!」


 だいたい事情は察した。

 決定的な戦力、いやハイレベル不足だ。

 今ここに集まっているのもB級以下のパーティまたはミドルレベル以下の魔物掃除役だろう。


〝塔〟――【災厄の天穿塔】が吐き出す魔物の露払いとして。


 だが攻略しなければ魔物の流出は止まらない。

 成長を示したならその根源、『魔王級』の魔物を倒さなければ。


 それができるのは、きっと――


「だがアディン、お前ならやれるかもしれん! そのためにも我ら〝Giftedギフテッド & Includerインクルーダー Levelingレベリング Divisディヴィionersジョナーズ〟はお前を全力でサポートする! だから頼む、この窮地を救ってくれぇ!」

「……わかった。なら今すぐ臨時パーティを結成する!」


 そこで俺はマントをひるがえし、集う冒険者たちへと視線を向ける。

 彼らもギルドマスターとの会話に気付き、すでにこちらへ向いていたようだ。


「今の話を聞いたなら我こそはという奴は名乗りを上げろ! そうすれば俺がお前達を英雄にしてやるぞっ!!!」


 この際パフォーマンスでもいい、少し横柄なくらいでいこう。

 さぁ来い英雄志望たち、勇気を見せてくれ!


「よ、よし、俺が!」「私も行きます!」「僕も!」 


 出だしは躊躇いもあったが、次々と勇気を出して一歩を踏み出してきた。

 みんな小粒だが充分だ。レベル不足は俺が補える。


「お、俺スヴェンって言います!」

「名前はいい、職業とレベルを教えてくれ」

「あ、戦士でレベルは29」

「上等じゃないか。次は――」


 こうして次々と名乗りを上げる冒険者たちを査定。

 パーティは最大で六人まで、その条件の中で可能な限りの最良編成を行う。


「即席だが充分だ。これなら魔王級も倒せるはず」


 立候補者たちも思っていたよりレベルが高くて助かった。

 おかげで魔王を倒した当時の俺達の平均レベルより高くなったぞ。


「けどこの構成って……」

「回復役がいないんだけど?」

「俺がヒーラーだ。薬士なんでね」

「「「え……」」」


 ただ一瞬、新しい仲間たちに不安の表情が浮かんだ。

 世間の薬士に対する評価というのはそこまでなのか。

 アルバレストにいた時はまったく気にならなかったんだが。


 しかし四の五の言っている暇はない。


「よし、さっそく塔へ乗り込む。おやっさんは支給品の手配を!」

「おう!」


 そのまま俺達はギルドの支援を受けつつ街を出立、速馬に乗って六人だけで塔へと向かう。

 そうするとさっそく、景色の彼方に問題の塔が見えた。


「ああ、本当に翼が生えてやがる」


 天のはるか先にまで至る塔、その中腹に鳥のような翼が伸び、ゆっくりと仰ぎ続けているのがわかる。

 あの高さからすると、おそらく五〇階くらいだろうな。


 そんな塔を見据えながら走り、俺たちはとうとう辿り着く。

 そしてこの国の命運を賭けた戦いに身を投じたのだ。




 ――だが。




 今、俺は一人だけで戦っている!

 この状況、とてつもなくハードオブハードだ……ッ!!

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