コリウス

赤猫

叶わぬ恋が辿り着く場所

 恋心とは甘い砂糖菓子のようなものだと私は思うのですよ。


 …嗚呼。ごめんなさい、突然こんな事言って驚きますよね?

 それでは自己紹介を…私はこのお店【コリウス】の店主をしています。

 本名は流石に恥ずかしいので、気軽にアイとお呼びください。


 ちなみにお店の名前になっている【コリウス】って言うのは花言葉で…時間ですねお客様がいらっしゃいましたので本日はここまで時間がありましたらこの話の続きを話しますので、お待ちください。



「いらっしゃいませ」

「ここって雑貨屋さんですか…?」


 可愛らしい紺色のブレザーに紺と紅のチェック柄のスカートを履いた女の子が不安げな表情をして入って来た。


「まぁ似たようなものです」


 説明するのが面倒になった私は、そういうことにした。

 小物とかも売ってるからOKってことで。

 だけど、ここにたどり着くってことはから見つけるわけで。


「ここに来るまで大変だったでしょう?よろしければお茶しませんか?」


 私は彼女にテーブルに座るように促した。


「い、いやそんな…」

「気にしないでくださいな、お客様もなかなか来ないくて寂しい思いをする私を助けると思って」


 人が来るのは何か月ぶりなのだろう?ここを見つける事はまず普通の人ならありえない。

 何となくでたどり着けるような場所ではないのだから。


「飲みたいものあります?コーヒーにココア、緑茶に紅茶ある程度ならそろってますよ?」

「えっと…緑茶で」

「暖かいの?冷たいの?」

「暖かいので」


 私は、お茶を準備するために台所に向かった。

 チラッと女の子を見るとソワソワしているようで慣れていないんだろうなぁと思うと微笑ましくなる。


「お待たせいたしました」


 私はお茶を置いて彼女の向かいの席に座った。

 お礼の言葉とペコリと小さく頭を下げてから彼女は、お茶を飲んだ。


「さて自己紹介をしましょうか、私はここのお店で店主をしていますアイとお呼びください。差し支えなければ貴方のお名前を教えていただけませんか?」

「わ、私は秋月志保あきつきしほです」

「素敵なお名前ですね」


 初めは当たり障りのない少しづつ心の壁を取り除いてあげる。

 この仕事をしているうえで絶対に必要な能力である。

 仕事でこういったことばかりをしているせいだろうか?日常会話でさえそういうことを意識して会話を楽しめていない。


「ここのお店の小物って可愛いですよね」

「おー、秋月さんはお目が高いですね。実はこれなんですけど私が自作してるんですよ」

「え?!凄い!どうやってやるんですか?」

「レジンとかドライフラワーとか使ってますね」


 ごめんなさい半分は嘘なんです。

 私は材料は注文したりしてるんですけど、そのハートの飾りのあるイヤリングは、友人であるユウさんが作ってくれます。

 こんな名前をしているけど彼はれっきとした男性の方でした。


「良いなぁ…こんな素敵なもの着けて出かけたら楽しいだろうなぁ…」

「それ差し上げますよ」

「え?!良いんですか?!」


 ひとつくらいタダで渡したところで私がユウさんに怒られるだけだからなんともない。


「貴方の笑顔が見れるなら安いものですよ」


 心の内をさらけ出してくれるのならなんでも利用する。


「ありがとうございます…これ今度着けて出かけようかな…」

「誰と誰と?」

「そ、それは…その…す、好きな人がいて…それで…」


 やっとこの子の心が見えてきました。

 ここに来るのは、恋の悩みを抱えた人が来る場所だから、ここに来るってことはそういうことだ。


「うんうん、とっても素敵な心ですね…貴方の結果を聞きたいのでまたいらしてくださいな」

「ありがとうございます…また来ますね!」


 秋月さんは、目をキラキラ輝かせてお店を出ていってしまいました。

 彼女の結果は、また来てくれるだろうから楽しみにしておきましょう。


「売上はどうですか?」

「いやぁ…それは…ごめんねぇ…タダであげちゃった☆」

「そっかぁ…」


 私のおでこに綺麗な指でのデコピンを貰った。


「痛いよユウさんー」

「なんでタダで渡すんだよ、大バカ!そういうことしてるから毎度毎度お前は金欠でもやし生活だろうが!」

「正論だから否定が出来ない、今日は何用ですか?」

「様子見に来ただけ」


 彼はここに勘で来ることが出来る不思議な人。


「どうだったんだよお客さん来てたんだろ」

「これからって感じ…ま、近いうちに来るのではないでしょうか?」


 私は、テーブルの上に置かれている。

 ガラスの瓶に入った角砂糖を見つめながらユウさんが作ってくれたコーヒーを飲んだ。


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