転生した俺は追加戦士として成長する
真白よぞら
1撃 その男、追加戦士
ビル群に見下ろされた、ひらけた公園。デートスポットに最適であろうこの都会と自然のコントラストが最高の絶景。
だが今、そんな景色にそぐわない悲劇が起こっている。立ち昇る砂煙、あちこちで起こる爆発。
「……強すぎる!」
「俺っちたちじゃ勝てなくね?」
多数の爆撃を受け、フラつく人物が五人。周囲を破壊しているカイブツが一体。
五人はカラフルな全身スーツを身にまとい、顔まで隠している。いわば正義のために戦うヒーローってやつだ。
その中の、赤いコスチュームと黄色いコスチュームのヒーローが、フラフラながらもまだ立ち向かっている。
「まだ立つボム? しつけぇボムなぁ! マオウ軍が誇る傑作、爆弾マゾックがここ一帯を消し飛ばしてやるボム!」
ヒーローたちに、ジリジリと近づく爆弾マゾック。両手を上に突き上げ、なにやら力を溜めている。だが、現状を打破できる可能性があるヒーローはもう動けない。
青、緑、ピンクのヒーローは既に動かない。それに加え、ギリギリまで粘った赤と黄も、力を溜める前の爆弾マゾックの一撃で力尽きた。
「これで終いボムゥゥウ!!」
力尽きたヒーロー達を構うことなく、爆弾マゾックは最大火力の攻撃を放とうとする――
「――変身」
このままこいつらに死なれては困る。そろそろ俺も、前に出て戦わないとな。
黒く輝く俺の魔剣グラム、もといアヴァンチェンジャー。俺が、倒れているヒーローのように変身するために必要なアイテム。
ちなみに、あいつらが持っている武器も総じてアヴァンチェンジャー。それぞれ武器名があるのに、アヴァンチェンジャー。不思議で仕方がない。
「――ッ!! 誰ボム!?」
「誰でもいいだろ」
俺のグラムに斬りつけられた爆弾マゾック。お決まりのセリフを言われるが、俺は答えるつもりなんてない。
「その姿……まさかあの奇怪な集団の六人目ボムか!?」
「奇怪な集団ってのには同意するが、六人目ってのは否定させてもらう」
言って、再び爆弾マゾックを斬りつける。爆弾マゾックは、防御が間に合わず斬撃をモロに浴びる。
「おかしいぞ! その見た目で! 珍妙なポーズもせずに、変な名乗りもないなんて!」
余計なお世話だと思う。
「俺は別なんだ」
「やるんだボム! 珍妙なポーズをして、堂々と振る舞えボム! 怠けるなボム! それでもヒーローボム!? 名乗り終えるまで待ってるボム! 早くボム!」
どうやら爆弾マゾックは、俺の態度が不服なようだ。時限爆弾型の頭につけられたモニターの数字が、まるで怒りを表すかのようにチカチカ点滅している。
どうして紐のついた丸型デフォルメ爆弾じゃなく、こんなゴツゴツした時限爆弾をベースにしたマゾックなんだろう。
「ええい! 早くしろボム! 五分以内にしないともう攻撃するボムぞ!?」
「しないし、くどい」
執念深くポージングを強要する爆弾マゾックに向け、素早い斬撃を数回繰り出す。
斬撃の衝撃に仰け反る爆弾マゾックに出来た隙。俺はそれを見逃さなかった――
「――暗黒大斬撃」
少しの恥ずかしさを堪え、魔剣グラムが繰り出せる必殺技を披露する。
魔剣グラムを持つことが許された者にだけ渡される、紋章が刻まれたカード。これをグラムの柄にかざす。
『トドメ! イチゲキ!』
カードをかざされたグラムから響く音声。これは爆弾マゾックにとっての鎮魂歌に等しい。いや、単に死神の声か?
真上から下ろされたグラムの剣先が、爆弾マゾックの頭部に直撃。
「ばかな……! 名乗りもしないヒーローに、この俺がやられるとは! 不覚ボム……」
盛大に爆散する爆弾マゾック。中身のなくなった箱のように、軽い音を立てて爆炎の中に残骸が落ちていく。倒される間際までポージングにこだわるなんて、しつこすぎる。
が、これで俺の役目は終わった。ヒーローたちが意識を取り戻す前に立ち去らないと。変な仲間意識を持たれたら面倒だ。
「君は……誰なの?」
去ろうとする俺を引き止めるように、痛みを堪えながら発せられたであろう言葉が俺に届く。
どうやら赤のヒーローが意識を取り戻した。
去るつもりでも、呼ばれるとついつい立ち止まってしまう。背中越しに見てみると、俺を追うつもりなのか、立ちあがろうとしている。だが追わせるつもりも、質問に答えるつもりもない。
「俺のことは……」
俺の名前は、
だが、完全な異世界に転生したわけではなく。現代社会に異世界が混ざり合ったような世界。
転生した当初は、なぜこんな奇妙な世界に転生したのか疑問だった。だが、あの全身スーツを見てピンときた。ここはあいつら正義のヒーローが活躍する漫画の世界。俺自身は漫画を読んでなかったが、いつも友人が楽しそうに語ってくれていた。
なので、転生するべきはあいつだったのでは? と思う。俺は、この世界の住人としての知識しかない。漫画を読んでいたなら、展開を理解して上手く立ち回れたのであろう。
「……話す必要はない」
話すつもりはないが、念のために過去を思い出してみた。これは話す話さないと言うより、話せない。他の世界から来たなんて誰が信じる? それに、話してどうなる。群れるつもりはない、俺は俺の役目を全うするだけだ。
だから俺は赤の質問に答えず、俺はその場を去る。
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