アイス・スチール;チョコミント

栗岡志百

序章 見ぬもの清し——知らなければ平気

 日の入りがすっかり遅くなった初夏。

 国内最大の繁華街<ミナミ>の一角にあるこのエリアは、複数路線が乗り入れていることもあり、国内外の観光客の往来も多い。

 飲食遊興目的でやってくる人間に、定時で勤めを切り上げた会社員が加わって、夕刻の雑踏の密度はますます濃くなっていた。

 佐藤アインスレーは、浮かれた賑わいをみせる人々を横目に思う。

 飲食やエンタメ・アミューズメント施設が集まっているこの一帯が、かつては黒門くろもんと塀で仕切られた、広大な墓所だったことを知っている人間はどれぐらいいるのだろうかと。

 墓所だけではない。

 刑場と焼き場が並置されたこの場所で、推測ではあるものの、処刑されたのは毎年数百人以上といわれている。

 獄門台には晒し首が並び、罪人を運んで首を切る役目を負わされた者たちの住居まであったのだそうだ。

 その大きな墓所も時代を経るとともに移転し、刑場は廃止されることになる。

 当時の政府は、刑場だった痕跡を消そうと目論んだ。芝居小屋誘致にはじまった策は、遊郭や芝居小屋の移転や整理政策とリンクして、再開発が達成される。

 そうして大型遊興施設をそなえた現在の姿に変貌をとげたわけだが、過去の街の記憶は消しきれない。

 猥雑で悪所的楽しみの名残りが、ひょっこり顔をのぞかせる場所でもあった。

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