第2話 マクシミリアン・アーチボルド公爵
三年前、国を存亡の危機に追いやった魔王との死闘は壮絶を極めた。
近衛騎士団、王宮の魔術師が総力戦で戦い、ようやく敵を封印することが出来た。
その中で最も大きな役割を果たしたのがマクシミリアン・アーチボルド公爵である。
マクシミリアンは膨大な魔力を誇る当代随一の魔術師である。
魔王を封印する時には特別に藁で作った人形(ひとがた)に邪悪な魔王の呪力を吸収させた。
魔王の呪詛の塊であると言っても過言ではないこの藁人形は危険だ。その取り扱いは慎重を期する必要がある。
王宮に持参する際には幾重にも魔法を掛け、絶対に他人に触らせないように注意した。
魔王討伐隊一行が王宮に戻って来ると、彼らをねぎらうための特別室が用意されていた。王宮に滞在中はその部屋を使うことになる。
国王との謁見前に、討伐隊の面々はそれぞれの部屋でくつろぐことにした。
マクシミリアンも自分にあてがわれた豪奢な部屋で湯浴みをして清潔な服に着替えると、ようやく人心地ついたような気持ちになった。
その時である。
誰かが部屋の扉をノックしている。
マクシミリアンがドアを開けるとそこには美しい貴族令嬢が立っていた。
「・・・えーっと、どちら様?」
戸惑うマクシミリアンに令嬢は無邪気な笑顔を見せた。
「あの、今回魔王討伐でご活躍されたマクシミリアン・アーチボルド様ですねっ!私、ファンなんですっ!是非お話しを伺わせて欲しくて・・・」
「いや・・・そういうのは迷惑だ。これから国王陛下との謁見もあるから控えてもらえないか」
敢えて冷たい言い方をすると令嬢の瞳にみるみる涙が盛り上がった。
え。マジで!?泣くのか?これくらいで?
マクシミリアンが驚いていると
「あの・・・ちょっとだけでいいんです。どうしても・・・どうしても国の英雄とお話しがしたくて、ほんのちょっとでいいんです!!!」
と言いながら、彼女はマクシミリアンの目をジッと見つめた。
マクシミリアンの頭がグラリと回る。脳が上手く働かない。
まさか!?魅了の魔法!?こんなに強い魅了は感じたことがない!
動揺して固まっているマクシミリアンの脇をスルリと通り抜けて、彼女は部屋の中に入り込んだ。
「お、おい!困るよ!君!いい加減にしてくれ!」
と焦って彼女の後を追いかけると、令嬢は
「え・・・?もう解けちゃったの?」
とガッカリした様子で部屋から大人しく出て行った。
あれは何だったんだ?
脳内は疑問符だらけだが、英雄になるというのはこういうことなのかもしれないと思った。
有名になると寄って来る大勢の人間の中には変なのもいるということだ。ああ、面倒くさい。
それよりも国王との謁見の時に人形(ひとがた)の取り扱いについても注意しないと・・・とマクシミリアンは奇妙な令嬢のことはすぐに忘れた。
その後、魔王の人形(ひとがた)は安全な場所に保管されることとなり、マクシミリアンはホッと安堵した。
国には平和が戻り、マクシミリアンは国王から好きな褒美を選べと言われたが、特に今欲しいものはない。
静かな生活が送れればいい、褒章はいらないと断ったが「国を救った英雄に対してそういう訳にはいかない」と食い下がられて「じゃあ、ちょっと考えさせて下さい。僕はしばらく領地に戻ってのんびりします」と言い、王都を去った。
***
それから二年近く経ったある日、王都から魔王の人形(ひとがた)が盗まれたという緊急連絡が入った。
マクシミリアンは苛立って地団太を踏みたくなった。
あの人形を厳重に保管することがいかに重要かをしつこいくらいに説いたはずなのに何が起こったのか!?
王都に行くと人形の保管庫の警備に当たっていた担当者は行方不明だという。
人形はまだ保管庫に置いてあったがそれは偽物だ。
担当者が偽物とすり替えて、本物の魔王の人形(ひとがた)を盗み出したらしい。
マクシミリアンは魔王討伐で共に戦ったハリーと一緒に人形捜索に乗り出した。扱い方を誤ると再び魔王が甦ってしまう可能性がある。
それにあの人形は魔王の呪力を封じ込めているだけでなく、悪人が私利私欲のために利用することも出来るのだ。
マクシミリアンたちは必死で人形捜索を行っていた。
そんな中、真夜中に、森の中でカーンカーンと響く音がするという噂を聞いた。何か金属を打っているような音だという。
あの人形を使って憎い人間に呪いをかけることが出来る。
その呪いは敵に不幸をもたらし、いずれは死に至らしめると言われている。
人形の呪力を発現させるには夜中に呪いたい人間の体の一部(髪などが一般的)を人形の中に仕込み、そこに五寸釘を打ち込めばいい。
真夜中に森で奇怪な音がすると聞いた時に真っ先に思いついたのがその可能性だ。
しかし、呪っている姿を人に見られた場合、全ての呪いが倍になって呪った人間に降りかかる。
人を呪わば穴二つ、というのは冗談ではない。
魔法を詳しく勉強した人間なら呪いの藁人形の使い方は知っているはずだ。人に見られたら一巻のお終いだという意識はあるだろう。人に見られないような工夫をしているはずだ。
マクシミリアンは森の探索を始めた。
用心しているであろう犯人に怪しまれないようにマクシミリアンは動物に化けて森を捜索することにした。
その日は雪が積もっていたので、目立たないように雪と同じ色の鹿に化けて森を探索していた。
その最中に偶然王太子一行に行き会わせてしまった。
当時、王太子の評判は両極端に分かれる。
素晴らしいと絶賛する者とクズだと批判する者。
マクシミリアンはクズ側に賛同したい気持ちだった。
現に白い鹿になったマクシミリアンに向けて王太子は銃口を向けた。
そんな銃なんて怖くない。返り討ちにしてやろうか、と手ぐすねを引いて待っていたマクシミリアンだったが、意外な展開になった。
クズに同行していた美少女が両手を広げてマクシミリアンを庇うように立ちふさがったのである。
「殿下!なりません!白い鹿は神の御使いとも言われています。無用な殺生はお止めください!それに今日は狩りにきた訳ではありませんでしょう?」
雪のように白い肌にキラキラ輝く紫水晶のような瞳には強い意思が感じられた。真っ白い髪が風になびく。寒いせいか鼻の頭と頬が少し赤らんでいるのも堪らなく可愛いと思った。
「分かってる。父上からも注意を受けた。森でむやみに動物を殺してはいけないと言われている。お前は冗談も分からないのか。つまんない女だ」
優しい少女を侮辱する王太子は最低のクズだと内心ムカついたが、少女はホッとしたようにマクシミリアンを見つめた。
『良かったね』と言うかのような美少女の微笑みにマクシミリアンの心臓が弾んだ音を立てる。
しかし、王太子の手元が狂ったのか、銃がその手から滑り落ちた瞬間に暴発し、美少女の左足に銃弾が命中してしまった。
「・・・っ!」
痛みを堪えて蹲る少女にマクシミリアンは愕然とした。
何故・・・守ってあげられなかったのだろう。
お前は当代一の魔術師じゃなかったのか!?
マクシミリアンは咄嗟に姿を見せて彼女に治癒魔法を掛けようと思ったが、それより先にクズ王太子の従者たちが素早く馬を降り、彼女の傷の手当と治癒魔法を始めていた。
俺のせいだ・・・。
マクシミリアンはひたすら悔しがった。
優しい少女を守れなかったことに。
そして、原因を作った王太子が痛みに呻く少女を見ても平然としていたことに。
マクシミリアンはその場から離れられなかった。
その少女の頬を涙が一筋伝っているのが見えた。
宝石のように美しい涙を見て、マクシミリアンは思わずその頬を舐めてしまった。ふわりと良い匂いがする。
「・・・ありがとう。あなたは優しいのね。私は大丈夫よ」
いじらしい少女の台詞を聞いて、マクシミリアンはますます罪悪感に駆られた。
しかし、ここに居続けるのは得策ではない。
幸い従者たちは少女を大切に扱っているようだ。
マクシミリアンは身を翻して森に戻ったが、あの少女のことは生涯忘れないと心に誓った。
その後、その少女がシルヴィアと言い、王太子の婚約者だと聞いてマクシミリアンは絶望した。
あんなクズの婚約者なんて・・・とシルヴィアのことが気の毒で泣きたくなる。
銃の事故のせいで婚約破棄になるのではないかと密かに期待したが、結局婚約は継続されるらしい。
マクシミリアンはシルヴィアのことが気になって仕方がなくなった。
任務として人形の捜索が最優先だが、空いている時間があるとシルヴィアについて調べるのを止められない。
これは異常な執着ではないかと不安になったが、どうしても彼女が気になって仕方がなかった。
しかし、調べれば調べるほどマクシミリアンの腸(はらわた)は怒りで煮えくり返った。
彼女は酷い状況に置かれている。
婚約者の王太子は想像通りのクズだが、それだけではない。婚約者のシルヴィアを差し置いてプリムローズという子爵令嬢とイチャイチャラブラブしているらしいと報告を受けて、そのまま王太子に殴り込みに行こうかとさえ考えた。
更にシルヴィアには日々、不可思議な災難が降りかかっているようだ。
しょっちゅう転んでいるとか、犬の糞を踏んでいるとか、バナナの皮に滑って転んでいるとか、マクシミリアンの不安を増長するような報告ばかりで、何故シルヴィアにはこんな不運な出来事ばかりが起こるのかと疑問を持ち始めた。
しかし、マクシミリアンには人形の手がかりを追うという仕事がある。
シルヴィアのことだけを考えてはいられない。結局真夜中に森で発生する謎の音に関しても手がかりは得られなかった。
森は広すぎる。音は反響して具体的にどこと特定するのは難しいし、恐らく犯人は用心して場所を変えているに違いない。
人形の手がかりがあるという情報を得て、わざわざ辺境の地まで行ったのに結局空振りに終わり、ハリーと愚痴をこぼしながら王都に戻って来ると、大きな災難がシルヴィアを襲っていた。
シルヴィアが階段から落ちて怪我を負ったという噂を聞き顔面蒼白になったが、無事に自宅療養中であるという報告を得て、マクシミリアンはホッと安堵した。
しかし、また・・・と疑問が再び持ち上がる。どうして、こんな不運な事故ばかりがシルヴィアに起こるのか?
更に腹立たしいことに、その事故は彼女がプリムローズを階段から突き落とそうとして起こったものだ、嫉妬する女は怖いなどというシルヴィアの悪評が広まっていったのである。
マクシミリアンは怒り心頭だ。
シルヴィアは濡れ衣を着せられて、悪い評判を立てられて・・・
世界を破壊してやりたくなるくらいの怒りで全身が震えた。
そして、卒業パーティで王太子がシルヴィアに何かをするかもしれないという情報を得たマクシミリアンはひっそりと変装して卒業パーティに紛れ込んでいた。
案の定、シルヴィアは断罪され婚約破棄されたが、それを途中で止めなかったのは、婚約破棄と言われた時にシルヴィアの表情が間違いなく一瞬だけ嬉しそうに輝いたからである。
絶対に希望的観測による見間違いなどではない。
シルヴィアは王太子のことが好きな訳じゃない、と分かった時に喜びは何物にも代えがたかった。
もしかしたら、自分にもチャンスがあるかもしれない。
そんな希望の光が胸に灯った時に、ふと王太子の隣にいる少女が視界に入った。
王太子の浮気相手のプリムローズだろう。報告で名前だけは何度も出てきたが実際に顔を見るのは初めてだ。
確かに美少女と言ってもいいが、シルヴィアの方が遥かに魅力的だ、と考えて、脳の記憶の中で何か引っかかるものがある。
あれ・・・どこかで会ったことがある?
必死で過去の記憶を引き出した時に、魔王討伐から戻ったばかりの頃に部屋を訪ねてきた少女のことを思い出した。
あの時の少女が得意気に王太子の腕を取り、断罪されるシルヴィアを嬉しそうに眺めている。
シルヴィアが酷い目に遭うのが楽しくて堪らないというように口元を歪める様を見ていたら、パズルのピースが少しずつハマり全体像が見えてきたような気がした。
あの女は明らかにシルヴィアを憎んでいる。彼女の苦境を望んでいる。
そして、シルヴィアは異常なまでに不運に見舞われてきた。まるで、誰かに、何かに呪われているかのように・・・・。
プリムローズは藁の人形のことを知っていて自分に近づいてきたのか?
まさか・・と思うが、否定する材料はない。
また、プリムローズは非常に強力な魅了の魔法を使えることを思い出した。
魔王の人形を盗み出すために保管庫の警備担当者を魅了して偽物とすり替えた?
いや、調査によるとシルヴィアの不幸が始まったのはそれよりずっと前。学院に入学してすぐのことだ。
それはちょうど僕達が魔王討伐から戻ってきたばかりの頃だった。
まさかとは思うが保管庫に入れる前に既にすりかえられていたとしたら?
単なる子爵令嬢にそんなことが出来るか?
無理だろう・・・・
しかし、もし王太子が彼女を手助けすれば?
例えば、王太子が警備担当者を脅し、あるいは賄賂を渡し、さらにプリムローズが魅了の魔法を使えば・・・不可能ではない。
そして人形を手に入れたプリムローズはシルヴィアを呪い始めた・・・。
理屈は合う。
しかし、証拠がない。
森から聞こえたという奇怪な音も最近は聞かれなくなったという。
プリムローズはシルヴィアを不幸にするのが目的で、彼女を呪っていた。
しかし、今は卒業パーティの断罪・婚約破棄で彼女が不幸になったと思っているから、もう呪う必要はないと考えているのかもしれない。
でも・・・・・もし、シルヴィアが一発逆転で幸せになったと聞いたら?
そうしたら、もう一度呪い始めるのではないだろうか?
マクシミリアンは客観的に自分の結婚相手としての価値を分析している。
自分は世間的に、というよりプリムローズのような女の目からしたら超優良物件だろう。
マクシミリアンの脳が忙しく働き始めた。
***
「でも・・・お前、暴走しないように気をつけろよ?お前はシルヴィア嬢に固執し過ぎだ。彼女はお前のことを全く知らないんだろう?知らない男からいきなり求婚されたら普通はドン引くぞ」
騎士団長のハリーは自分のシルヴィアへの気持ちを知る唯一の友人だ。
「大丈夫だ。慎重に行く。それに僕だって恋愛経験がない訳じゃない。シルヴィアの心を掴めるように頑張るさ」
「よく言うよ。婚活パーティは彼女を引っ張り出すのにいい考えかもしれないが、私情と作戦を混ぜるのは正直得策ではない気がするんだがな・・・」
ハリーは、恋愛は恋愛、仕事は仕事、と明確に分けた方が混乱が少ないと考えている。
花嫁を探すためのパーティを大々的に開き、そこでシルヴィアが選ばれ婚約→結婚という流れになれば大きな話題となり、プリムローズが彼女の幸福を妬んで、再び彼女を呪い始めるかもしれない。
今度こそ人形を回収してみせると張り切っているマクシミリアンだが、そんなにうまくいくかとハリーは懐疑的だ。
それにマクシミリアンの一番の目的は人形の捜索ではなく、シルヴィアとの婚約→結婚になってしまっている気がして、それも懸念の一つであった。
しかし、思いがけなく作戦は上手くいった。シルヴィアは強引なマクシミリアンの求婚に応じ、彼との婚約を受け入れたのである。
マクシミリアンは有頂天だ。これで仕事は終わったとばかりに満足気な表情をしていてハリーはイラっとした。
「おい!マクシミリアン!お前、俺たちの仕事はこれからが本番だということを分かっているのか?」
「ああ。でも、人生を掛けた仕事は既に成功したと思っている」
「まったく・・・脳内がお花畑になっているな」
とハリーは深い溜息を吐いた。
しかし、マクシミリアンは仕事のことも一応は考えている。
マクシミリアンとシルヴィアの婚約の噂が広がると、マクシミリアンたちは連夜プリムローズの屋敷に目を光らせた。
そして深夜、屋敷からスラリとした人影が滑るように森の中に入って行くのを確認してマクシミリアンは追跡する。今回はフクロウに化けて追いかけたので足音もしない。
その人影は森深くに入り、周囲をキョロキョロと何度も見回した。
そして、誰もいないことを確認した後、藁で出来た人形と五寸釘を取り出した。木に人形を押しつけると、その人形の頭に向かって五寸釘を突き刺した。その釘を何度も何度も打ち込むのでカーン、カーン、カーンという音が周囲に響く。
マクシミリアンはその儀式に夢中になっているプリムローズの背後に近づいて
「ワアッ!」
と叫んだ。
「キャッ!!!!」
プリムローズの肩が大きく揺れてガバっと振り返るとマクシミリアンが黒い笑みを浮かべて彼女を見つめている。
「呪いの儀式は絶対に人に見られてはいけない。見られたらこれまでの全ての呪いが倍になって自分に降りかかるんだよね?」
それを聞いたプリムローズの顔色が真っ青になり、ガクガクと膝が震えだした。
地面に崩れ落ちたプリムローズを、駆けつけたハリーたち近衛騎士団が連行していく。
藁の人形は再びマクシミリアンが幾重にも結界を張り王宮の保管庫に閉じ込めた。
今回はマクシミリアンが直々に保管庫に入れ、その周囲に厳しい結界を張ったので安全だろう。
***
そして予想通り、プリムローズにはありとあらゆる災いが降りかかった。必然的に彼女の婚約者である王太子も無傷ではいられない。
魔王討伐直後、本物の人形(ひとがた)は保管庫に入れる前に王太子とプリムローズによって入れかえられていた。
二人は保管庫の警備担当者を操り、偽物の人形を保管庫に入れたのだ。
それを知っているのは警備担当者のみ。
だが約二年後、点検の時に保管されている人形が偽物だとバレてしまった。
このままでは罪が見つかるとプリムローズと王太子は警備担当者を逃がした。そして、逃げた男が本物を盗んだかのように偽装したのだ。
失踪していた警備担当者はすぐに発見され、プリムローズと王太子の罪を告発する裁判での証人になった。
坂道を転がり落ちるように彼女たちにとっては災厄が続いていく。
廃嫡された王太子の座は弟が継ぐことになり、クズは辺境に送られ、プリムローズは牢獄に入れられた。
***
対照的にシルヴィアには幸運が続いた。
マクシミリアンはシルヴィアの気がいつ変わって婚約破棄したいと言われるかと戦々恐々としている。
正直言うと、婚約に関してシルヴィアを口車に乗せた罪悪感はちょっとだけある。
最初は褒美としてシルヴィアと結婚させて欲しいと望むつもりだった。しかし、シルヴィアはもう結婚に興味ないとの情報を得た。
彼女の両親も既に婚約で酷い目に遭った可愛い娘に無理強いはしないだろう。
正攻法で求婚しても断られる可能性が高い。恐らく会うことも出来ないまま拒絶されることが予想された。
そこで考えたのが大規模婚活パーティだ。シルヴィアも出席せざるを得ない条件にすれば、彼女はパーティに参加すると踏んだ。
実際に会って、彼女を口説くチャンスが欲しかった。
「巧遅(こうち)は拙速(せっそく)に如(し)かず」という。
とにかく下手でも速い方がいい、とスピード勝負に出ることにしたのだ。
どうしても彼女を早く自分のものにしたかった。どうしてもすぐに結婚したかった。結婚が無理なら婚約だけでもしたかった。
彼女の気持ちを自分に向けるためにマクシミリアンは出来る努力を続けているし、これまでのことも隠すことなくすべて伝えた。
密かにシルヴィアに執着し彼女のことを調べていたキモイ事実も伝え、嫌がられるんじゃないかと不安に思ったが、シルヴィアは逆に喜んだ。
自分のことをそれだけ知ろうとしてくれたなんて嬉しいと言うのだ。
「君はいい人過ぎる。そんなんだと変な男に捕まってしまうぞ。・・・僕みたいな」
「私は貴方みたいな人に捕まりたいわ。だって・・・貴方が好きだから」
そんな台詞を言われて煽られない男はいない。
マクシミリアンは幸福を噛みしめながら思いっ切りシルヴィアを抱きしめた。
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