第29話 祝福のおまじない
まるで新しく生まれ変わったような太陽が、女神像を燦々と照らしています。
その女神像のある噴水広場に、街の人たちが大勢集まっていました。
女神像のもとには、数人の男女がいます。
泣いているのは、本屋のパンセさんでした。きれいに着飾った、奥さんも一緒です。
この日のために遠い街からきたらしい老夫婦も、感無量といった様子でした。
向かい合った彼らの視線の先には三人の人物がいます。
女神像に背を向けて、こちらに顔を見せているのは神父さんです。
神父さんの前には、初々しい二人の男女がいました。
女神像に見守られて、少し恥ずかしげに、ずっと誇らしげに寄り添っています。
「あなたは、この者を生涯の伴侶として、永遠に愛を誓いますか」
と神父さんが言いました。
「誓います」
と、白いフロックコートに身を包んだバゲット先生が言いました。
「誓います」
と、純白のウェディングドレスをまとったフィーナが言いました。
「女神ナディアの加護のもと、これより二人を正式な夫婦とします」
と神父さんが宣誓すると、広場にいたみんなから盛大な拍手と歓声が湧き起こりました。
「おめでとう」
「おめでとう」
花吹雪が宙を舞います。
祝福の言葉が、まるで天上から流れるシャワーのように二人に降り注ぎました。
プアーッ。ラッパの音。
ドン、ドン。カン、カン、カン。太鼓や鍋が打ち鳴らされます。
街の人たちが手作りの音楽で、幸せな二人を祝福しました。
二人はお世話になった人たちのもとを、順にまわっていきました。
「おめでとう」
「おめでとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
祝福と感謝の言葉が溢れます。ミミルは胸の中が、なんとも言えない幸福感で満たされるのを感じました。
「おめでとうだよ、お二人さん」
とスースの奥さんも幸せそうです。
「おめでとう、お似合いだぜ」
「オメデトウゴザイマス」
ビゼも幸せそうな顔をしていました。もちろんユリヤも。
「おめでとう、おめでとう、ご結婚おめでとう」
ソンボは太鼓を叩いて踊りながら、自作の歌を歌っています。
幸せそうなみんなを見ながら、ミミルはこの場が不思議な力に包まれているのを感じました。
ふと女神像を見ると、その顔は慈愛に満ちて、街の人々を優しく見守っていました。
二人がミミルとトモリさんのいるところまで近づいてきました。
「とうとうこの日がきましたね。なんて言ったらいいのか……」
トモリさんは胸がいっぱいになって言葉に詰まりました。ハンカチで目頭を押さえます。
「いやあね、トモリさん」とミミルが言いました。「おまじない忘れちゃったの?おめでとうだわよ」
「忘れるもんか。おめでとう、おめでとう。本当におめでとう」
とトモリさんは嬉しすぎて、もうクシャクシャの顔で言いました。
「ありがとうございます、トモリさん」とフィーナの目にも光るものがありました。「本当に数え切れないほどお世話になりましたわ」
「私からもお礼を言います。本当にお世話になりました。ありがとうございます」
とバゲット先生。
「いえ、そんな、僕は何も……」とトモリさんは、また涙を拭きました。「お二人とも末長くお幸せに」
と心から二人を祝福しました。
「ミミルちゃん」とフィーナはミミルに向き合いました。「本当にありがとう。私たちが結婚できたのは、ミミルちゃんのおかげだわ」
「フィーナさん……」
ミミルは胸がいっぱいになりました。
フィーナは両腕を広げてミミルを抱きしめました。ミミルも小さな腕で、精一杯フィーナを抱きしめました。
「フィーナさん、おめでとう。愛してるわ」
「ありがとう、ミミルちゃん。愛してる」
そしてブーケトスの時間になりました。フィーナが女神像のところから後ろ向きに放り投げたブーケは、なんとミミルの手にすっぽり収まったものですから、トモリさんはすっかり慌ててしまったのですよ。
(おしまい)
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