第146話 聖歌の趣味


 「そういえば拳聖は自分で動画を投稿したりしないのか?」


 「あんまりやる気はないなぁ。正直めんどくさいし、俺は見てる方が楽しいから。なんかそれをやり始めると、色々疎かになりそう。投稿に追われたりさ」


 「なるほどなぁ。最近は色んな格闘家も動画投稿をしたりしてるからな。拳聖も配信者自体は好きみたいだし、興味があるんじゃないかって」


 俺が家のリビングのテレビで配信者の動画を見ながらダラダラしてると、不意に父さんが聞いてくる。俺はやる気はないね。見てる方が面白いし。動画のネタとか思い浮かばん。


 アップするとしても、練習動画くらいだし、それを見たいならジムの公式チャンネルを見てくれって感じ。偶にアップしてるから。


 「ほら、例の選手を煽る為に色々考えてるだろ? こういうので発信していけば、向こうも乗ってくるんじゃないか?」


 「なんかそれを一回やると相手の性格的に泥沼に陥りそう。それにそういうのは少なからず炎上するもん。日本と韓国の仲的に、擁護してくれる人が大半だろうけどさ。それでも燃えるって分かってて、やりたいとは思わないなぁ」


 やったらやったでそこそこ人気は出そうだけどさ。色んなところに気を回さないといけないのはめんどくさすぎる。


 これをやったら炎上するんじゃないかとか、一々気にしたくない。それなら最初からやらないのが正解だよね。特にお金に困ってる訳でもないし、俺は見る専で良いです。


 「そうか。そこまでやる気がないなら、無理に勧めるもんでもないな」


 「何? 父さんが興味あるの?」


 確かに引退した世界チャンピオンとかも、動画配信者になったりしてるよね。試合を同時視聴して楽しんだり、試合の総評を第三者目線で語ったり。


 俺も試合終わりは色んな人のを見るよ。普通に勉強になるし、俺と父さんでは気付かなかった欠点なんてのも指摘してくれてたりするから。


 まあ、たまに的外れな事を言ってる人もいるけどね。


 「いや、ない。俺は自分の言った事が世間に発信されるのがあんまり好きじゃない。というより苦手だ」


 「あ、そうなんだ」


 「俺も現役時代から美春になるべく炎上しない言動なんかを教わってたけど、どうも苦手でな。対戦相手から煽られたり、記者に意味の分からん質問をされたりすると、よく食ってかかったもんだ」


 「あー、たまに動画で見るなぁ」


 父さんは今でこそ落ち着いてるように見えるけど、現役時代は結構喧嘩っ早かったらしい。動画サイトの過去動画で見た事が何度かある。


 今の父さんからは想像もつかない。初めて見た時はびっくりして母さんに別人なんじゃないかって、確認しに行ったくらいだ。


 どうやら俺が生まれてから落ち着いたらしい。なんでも自分の評価が子供にまで影響する事を気にして抑えるようになったんだとか。


 俺がボクシングを始めなかったら、一般人として生きてた訳で。そうなった時に、あの子の親は〜みたいな事を言われるのを恐れたのだとか。


 まあ、世界チャンピオンと世界でも知られる女優の子として生まれて、普通に一般人として生きれたかどうかは怪しいけど。


 「ん? じゃななんでそんな事を聞いてきたの?」


 父さんも興味ないなら、なんで急にそんな事を聞いてきたのか。


 「あ、いや、聖歌がな。自分のダンスを動画サイトにアップしたいとかなんとかで。お前はどうなのかと思ってな」


 「なんですと?」


 俺が溺愛してやまない妹の聖歌は、小さい頃からダンスをしている。それは今も趣味として続けていて、それを仕事にする気はないみたいだけど、誰かに見てもらいたいとは思ってるらしい。


 「よーし! お兄ちゃんが全力でサポートしてやろう! アンチコメントなんてした奴は全員KOしてやる!」

 

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