第109話 その後


 「それでどうなったの?」


 「いや、普通に持参してたサイン色紙とか、Tシャツにサインして、一緒に写真を撮ったり、話をして終わりだった」


 父さんがケヴィン陣営からお呼ばれされて帰ってきた。無事に帰ってきて一安心である。


 で、何があったのかと話を聞いてみると、なんとケヴィン選手は父さんの大ファンだったみたいなのだ。


 父さんがアメリカで試合した時に、現地観戦してて、それを見てファンになってボクシングを始めたらしい。自国のボクサーじゃなくて、日本のボクサーのファンになるあたり、変わってるなと思ったけど、それで無敗の世界チャンピオンになるのは凄いよね。


 まあ、俺が初敗北をプレゼントしてやったがな! わははははは!


 「面白い縁もあったもんだね」


 「ああ。流石の俺もびっくりしたな」


 良いなぁ。試合を見てファンになって、ボクシングを始めるぐらいにはケヴィン選手にとって父さんは大きい存在だったんだろう。


 俺もいつかはそんなボクサーになりたいね。9階級制覇したら自然とそうなるかもなって思ってるけど。


 目標は世界で一番有名なボクサーになる事。最高最強のボクサーになる事。特典をもらった俺に出来ない筈はないね。


 これからもしっかり練習して精進していこう。



 ☆★☆★☆★



 「うへへへへ」


 「おい。いい加減そのだらしない顔をなんとかしろ」


 ケンシが帰ってホテルの部屋に戻ってきたが、ケヴィンの顔が気持ち悪くて仕方ない。強面の男が携帯画面をみてずっとにやけてるんだ。出来の悪いホラー作品よりよっぽど怖い。


 ケンシに会って最初はテンパってたケヴィンだが、時間が経つにつれて慣れてきたのか普通に会話出来るようになっていた。


 サインをもらったり、写真を撮ってもらったりと大はしゃぎだ。こいつ、この前試合に負けてチャンピオンの座から陥落したばっかりだぞ? この様子を見るとわざと負けたと言われても言い訳できん。


 日本に来るまではケンシのファンを隠してたくせに(隠せてない)今ではフルオープンだ。これはこれでめんどくさい。一体どうしたものやら。


 「おい、聞いてるのかケヴィン」


 「あのケンシとのツーショット…。たまらねぇなおい」


 ケヴィンは何故かうっとりしてるように見える。まさかこいつそっち系なのか? 我が国は比較的寛容だとはいえ、まさかケヴィンがそうだとは…。いや、前に彼女に振られて落ち込んでたな。………まさか両刀か!?


 「おい。ケンシは既婚者だぞ? 面倒は起こしてくれるなよ?」


 「んあ? 何を勘違いしてやがる」


 「お前の姿を見れば勘違いしてもおかしくないと思うが」


 どこをどう見ても恋する男だぞ。

 本当に面倒事は勘弁してくれよ?


 「お前はこれからどうするんだ? 初敗北。チャンピオンから陥落。一夜でお前が築いたものが崩れ去ったが」


 「ああ? ボクシングを続けるに決まってるだろ。出来たらケンセーにリベンジもしてぇな。向こうが階級を上げちまったらどうしようもねぇが。それに、確かにチャンピオンって地位は失っちまったが、俺はまだまだやれると思ってる。ケンセーとの試合で負けたが、成長は実感出来た。アメリカに帰って、早速練習だ。俺はもっと強くなるぞ」


 ふむ。ちゃんと考えてあるのだな。もしかしたら燃え尽きて引退なんてのも覚悟してたんだが。念願のケンシに会えてそうなる可能性も考慮してたんだが、心配は無用だったらしい。


 「なら、そろそろ帰るか。もう日本でやる事は済んだだろう」


 「ああ。思い残す事はねぇ。……ケンセーにリベンジしたらまたケンシに会えるのか?」


 「今のままじゃ何回挑んでもケンセーには勝てん。しっかり練習して、勝てる算段がついてからだな。その前に向こうが階級を上げてるだろうが」


 「ちっ。そう上手い事いかねぇか」


 「連絡先は交換したんだろう? ケンセーが日本で試合する時に観に来ても良いし、その時に会う約束でもすれば良いじゃないか。それにいずれケンセーもアメリカで試合をするだろう。その時に時間があえば会える事もあるだろう。それこそスパーリングパートナーとして名乗りを上げるのもいいな」


 「おお…。お前賢いな!」


 ケヴィンがやる気になってくれたようでなによりだ。このままボクシングを続けてれば会う機会もあるだろう。それまで俺達も皇親子に負けず成長あるのみだ。

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