第87話 対戦相手募集


 「申し訳ないけど、今のライト級で拳聖君と戦おうって相手が居ないね。みんな階級を上げるのを待って、尻込みしてるよ」


 「そうきましたかー」


 テスト、祝勝会も終わって本格的な練習を再開。その間に代理人の白鳥さんが次の対戦相手を探してくれてたんだけど。

 残念ながら難航してるらしい。


 我が家のリビングに白鳥さんをお招きしてお話。


 やっぱりチャンピオンになったからには、防衛戦はするべきかと、減量は嫌だなぁと思いながらライト級で対戦相手を募集したけど、名乗り出てくる相手が居ないらしい。


 「拳聖君はプロキャリアが浅くて若いとはいえ、これまでの勝ち方が強すぎた。全試合KOだしね。それにその身長と体だ。減量で苦しんでるのは素人でも分かる。さっさと上に上げるのを待ってるんだろうね」


 「減量苦に漬け込んで戦ってやろうって相手も居ると思ったんですけどねー」


 くそぅ。俺もちょっと厳しいかなって思ってたんだけど、みんなその考えとは。

 俺が減量に失敗したりしたら、一気にチャンスになるんだぜ? そういう考え方をする人もいると思ってたんだけどなぁ。


 「前の試合の影響だろうね。7Rまで戦ってガス欠になるどころか、ペースアップしたでしょ? あれを見て減量失敗の後半勝負をしようとしてくる相手はいないんじゃないかな」


 「いや、前回の減量も割とギリギリでしたけどね。リカバリーが上手くいったから、戦えましたけど。どこか一つでもミスがあったら、前回程のコンディションには持っていけないです」


 「拳聖君はそうでも、周りはそう見ないって事だよ。それにそこまで綱渡りなら僕も階級は上げるべきだと思うな。防衛戦はある程度余裕が出てきてからでも遅くないと思うよ」


 うーん。

 じゃあ階級上げるかー。

 せっかくベルトをゲットしたのに、すぐ返上しちゃうのは悲しいけど。

 まあ、すぐに次のベルトを獲得したら良いってポジティブに考えますかね。


 「スーパーライト級だね。前哨戦を挟むか、いきなりチャンピオンに直行かはどうする?」


 「直行でお願いします」


 「分かった。早速交渉に入るよ」


 「一番強い相手の団体が嬉しいです」


 「僕はそこまで相手の強さを見抜ける目を持ってる訳じゃないなら、どのチャンピオンが強いかは一概に言えないんだけど…」


 どうせやるなら強い相手。

 負けるリスクは勿論あるけど、俺はまだまだ成長期なんだ。色んな強い相手と戦って自分の糧にしたい。この前のリュカ選手との試合でスピードのある相手との戦い方ってのも、大体分かった。


 今度は別タイプの相手が良いなぁ。


 「ちょっと待って下さいね。動画を漁ってみます」


 タブレットをぴこぴこして、現在のスーパーライト級の各団体チャンピオンを見てみる。あんまり詳しくないんだよね。チャンピオンの名前ぐらいは知ってるけど。


 「うーん? なんか思ったより…」


 「強くない?」


 いやいや。

 先輩チャンピオン様にそんな事は言えませんよ。でもですね…。


 「動画だけじゃ分かりませんけど、リュカ選手と大差ないように見えますね」


 貶してる訳じゃないぞ。

 リュカ選手だって顔は腹が立ったけど、とても強い選手だった。


 「階級を上げていけばどんどん相手も強くなっていくって訳じゃないからね。パワーとかは上だろうけど、テクニックとかは下の階級の方が上手な人も居るよ」


 「現チャンピオンの中なら誰でも良いですね。一番早く試合してくれそうな相手でお願いします」


 そういう事になりました。

 防衛戦はしたかったけど、ライト級は卒業じゃい。

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