第60話 世界チャンピオン


 「拳聖!!」


 「うぇーい!」


 俺はガッツポーズをしながら大声援に応えてると、父さんがリングに上がってきた。

 いつものようにハイタッチをしつつ、ヘムサポ選手を見る。


 ヘムサポ選手は既に起き上がっていて、状況も理解しているみたいだ。


 「ありがとうございました」


 俺は起き上がったヘムサポ選手の元に行き、お礼を言いに行く。いや、ほんとにお礼しかないね。かなり勉強になったし、こんなに楽しい試合は初めてだった。ますますボクシングが好きになっちゃうね。


 勝者が敗者に掛かる言葉なんてないとかよく言われるけど、俺は時と場合によると思います。


 「こちらこそありがとう。完全にしてやられたよ。スイッチは予想してなかった」


 ヘムサポ選手は笑顔で応えてくれる。やっぱり試合後はこうでないと。マイク選手も見習ってほしいね。俺が実際負けたらこんな大人な対応が出来るかは分からないけど。



 そして俺の腰にOPBFのチャンピオンベルトが巻かれる。うーん、いいね。日本チャンピオンの時より嬉しいや。


 もっと余韻に浸りたいところだけど、この後にメインの試合がある訳で。

 さっさと控え室に撤収だ。


 いいなぁ。俺もこんな大舞台でメインで試合したいなぁ。次は世界タイトル戦かな? それとも、一回前哨戦を挟むのかな?

 まだ決まってないから分からないけど、メインで試合をしたいもんです。



 ☆★☆★☆★


 「ねぇ。僕、やっとの思いでこの前世界チャンピオンになったよね?」


 「そうだな」


 「12Rの激闘を経て、判定っていうしょっぱい結果にはなったものの、勝ちは勝ち。夢だった世界チャンピオンになれて滅茶苦茶喜んだよね?」


 「そうだな」


 「それなのに! それなのに! これは何なのさ! バケモンみたいな奴が出て来てんじゃん!!」


 「そうだな」


 メキシコの地にて。

 今終わったOPBFタイトルマッチ。

 それを一緒に見ていた、子供っぽい世界チャンピオンを見ながらため息を吐く。


 皇拳聖。

 父親が3階級制覇したボクサーで、なんとまだ17歳。やいやい言ってるうちの世界チャンピオンも19歳と若めだがそれでも驚異的だ。


 日本人は体の成長が遅いと思ってたのだが、そんなのを感じさせないぐらい体が出来上がっている。しかもこれでまだ発展途上ときた。ため息も吐きたくなるってもんさ。


 「くっそー! 世界チャンピオンになってウハウハな生活が出来ると思ってたのに!!」


 「そうだな」


 「こいつが階級を上げるまで我慢すれば良かったよ!! 勝てるビジョンが全く見えない!! ヘムサポだって、普通に世界を狙える選手じゃんか!! それをほぼ無傷だよ? やってらんないね!!」


 「そうだな」


 「何!? そうだなしか言わないじゃん! BOTなの!?」


 言いたい事は色々ある。

 お前が10代で世界チャンピオンになりたいって我儘言うから、マッチングしたんだとか、もう少し声のトーンを抑えて喋って欲しいだとか。


 でもこの状態になったこいつは、そういう事を言うと、更にうるさくなる。

 長い付き合いで重々承知だ。


 「リュカ、どうするんだ? 近い内に試合を申し込まれると思うが」


 「受けて立つに決まってるじゃん!! ほら! 練習行くよ!!」


 そう言いながら練習の準備をするリュカ。

 あれだけ文句を言ってても、試合は受ける気満々らしい。


 まぁ、試合をマッチメイクする度に文句は言ってるんだが。それでもしっかり勝ちを拾ってくる。


 トレーナーの俺はこいつが勝てるように仕上げて、相手を研究するのみ。


 「まずはあのフリッカー対策だね!!」


 「そうだな」


 俺はため息を吐きながら、関係各所に連絡して、リーチの長いスパーリング選手を見繕い始めた。


 

 

 

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