第33話 楽曲提供


 「拳聖君だよね? 次は日本チャンピオン戦って聞いたんだけど」


 いやー高校生なのに凄いねーなんて言いながら、俺に聞いてくる圭太さん。

 いや、あなた達も高校生の頃から歌の動画をアップしてたでしょうに。それでいて東大現役合格。

 顔出しするまで本当にその年齢なのか疑われてたって聞きましたよ。こっちは特典ありきのズルなんだから、ルトゥールのお二人の方がよっぽど凄いと思うんだが。


 まさかこの二人も俺と同じ様に特典持ちとか…?

 まぁ、流石にそんな訳ないか。ただの天才なんだろう。顔も良くて、歌も上手くて、勉強も出来る。

 いや、これで特典無しはズルいな。


 それはさておき。

 なんと次の日本チャンピオン戦。

 勝てば俺の登場曲を作ってくれるらしい。


 「え? え? マジっすか?」


 「うん。ここで会ったのも何かの縁だしね。それに動画見たけど…。運動能力いくつだよってレベルの動きしてるもん」


 ちょっと興奮し過ぎて後半は何を言ってるか分からなかったけど、そんなのはどうでも良い。

 ルトゥールからの楽曲提供だぞ? しかもわざわざ俺の為に作ってくれると。


 ルトゥールは色んな所から楽曲提供を請われてるが、滅多に書いたり、歌ったりしない。それが傲慢だなんてネットでは言われてるが、そのルトゥールが!

 俺の為に! 楽曲を! 書いてくれると!!

 しかも向こうからの提供なんて初なんじゃなかろうか?

 一ファンとして燃えない訳がない!!


 「やります! 俺! 1RKOで仕留めてみせますよ!!」


 「お、おお」


 圭太さんが俺の熱意に引き気味だったけど、そんな事はどうでも良い。

 やるぞ! 俺はやるぞ!


 「圧倒的勝利をしてみせますよ! その代わりカッコいい曲をお願いしますね!!」


 「それは任せておいてよ。俺と梓で最高の曲にするよ」


 パチリとウインクする圭太さん。

 やばっ。尊死しそう。顔面美の暴力よ。

 これ、男でも惚れるよね。そっちの界隈が盛り上がるのも良く分かるってもんよ。


 「うおーっ!! 俺はやるぜ!!」


 俺は圭太さんにぺこりと一礼して砂浜を駆ける。

 サボってる場合じゃねぇ! 次の試合はリミットいっぱいまで鍛え上げてやる!!

 見とけよ、日本チャンプ! ボコボコのボコにしてやるぜ!!


 「ほんと、身体能力が凄いな。拳士君。あの才能は潰しちゃダメだよ?」


 「言われなくても分かってる」


 そんな出会いがあった夏。

 俺の最高の奄美大島合宿は終わった。





 「うぐっ!」


 「ぐはぁ!」


 「おげぇ!」


 いつものスパーリング三銃士を仕留める。

 合宿から帰って来た俺のテンションは上がりっぱなしである。今の俺は誰にも止められないぜ。


 「ボンのやる気が凄いわ。これは対戦相手が気の毒やなぁ」


 「ほら! 先輩! もう1セットいきますよ!」


 「拳聖、今日はもう終わりだ。やる気があるのは分かるが、オーバーワークになったら意味がないぞ」


 「むっ」


 父さんの声にスパーリング三銃士は助かったみたいな表情をして、そそくさとリングを降りる。

 確かに休む時はしっかり休まないとな。


 「試合まで後一ヶ月あるんやで」


 「そろそろ本格的に減量しないとやばいですね」


 俺はリングを降りて会長と父さんと話をする。

 今の体重は62kgちょっと。リミットより1kgぐらい多い。まぁ、これぐらいなら前日の水抜きでなんとかなるんだけど。


 「どえらい体に仕上げよってからに」


 「いやー! 成長期って凄いですよね!」


 恐らく『超回復』のお陰だ。夏の合宿の成果が早くも出て来てる模様。

 普通は効果が出るのはもっと先なんだけどね。


 「そうか。そういえばボンはまだ高校生やったな」


 ピチピチの高校生ですよ!

 ボクシングをしながらもアオハルってのを謳歌してます。これで彼女が居れば文句は無いんだけどな…。いや、今はボクシングで忙しくて、とてもじゃないけどデートの時間は取れないな。

 高校卒業までは彼女持ちにはなれそうにない。


 まぁ? こういうのは? タイミングってのも大事って聞くし? そう。焦っちゃいけない。

 きっと俺にも運命の出会いがあるはずなのだ。

 父さんが母さんに出会ったように。俺が偶々ルトゥールの方々と出会ったように。

 だから、神様。とびきりの美人との出会いをお願いしますよ。


 ……なんかあの社畜中間管理職の顔が浮かんだ。

 これはダメかもしれんな。


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 明日は掲示板。

 

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