七、八、九日目『ラッキーな釣行は続かない、別れ』
7日目。1月3日の事である。
いつも以上に遅い朝。釣った魚を
外は雨模様。釣りに行くには不安がある。
そんな天気の中、友人は私に告げる。
「小田っち、やべえ知らせがある」
「あ?どしたん」
「4日まで居るつもりやったが。ようよう確認したら深夜バスの下車が4日だったわ…」
「つまり?今日で帰ると」
「嫌だあ〜」37のおっさんがダダをこねる風景は異様である。
「そしたらバスキャンセルすれば?」
「そうする!!!」おっさんの決断は早い。即バスをキャンセル。
私達は朝飯を食ってしまうと。
新幹線の予約をするために最寄りの駅に行き。
無事に5日の終電の新幹線を予約。
私達は安心して。昨日ロスした釣具を買いに博多の百均に行き。そのついでにバスターミナルの中の『しらすくじら』をリピート。
私が食べたのはフィッシュ南蛮定食。まさかの500円ポッキリ。
しかし、『しらすくじら』の安定感よ。定食が旨いのだ。後は白米が妙に旨い。
私達は『しらすくじら』を後にすると。雨混じりの曇天の中、釣行へ。奈多漁港に再チャレンジなのである。
電車を乗り継いで。奈多の住宅街を通り抜け。
奈多漁港に到着。小雨混じりの堤防は釣り人が少ない。
私達は堤防の真ん中に釣座を構える。
今日の私は。昨日友人がやっていたウキの上カゴサビキの仕掛けを譲り受け。
海にトライする。今日こそは仕掛けを失くすまい。
結果として。
私はアジとコノシロをバケツいっぱいに釣り上げた。
いやあ。入れ食いフィーバー。仕掛けを投げればウキが沈んで魚が釣れた。
秘訣は魔法の粉―集魚剤―をアミエサに混ぜることだ。
「いやあ。小田っち釣ったねえ」
「奈多漁港ちょろいですわ。いやあ。豊か豊か」
「これなら。明日の晩メシ代も浮くなあ。ガハハハ」
私達は家に帰ると。昨日と一緒のメニュー、コノシロの唐揚げとアジのフライに加えてアジのなめろうを作り。
旨い魚に舌鼓を打つ。いやあ。初めて作ったなめろうが滅茶旨い。
九州の麦味噌に醤油。この甘い味わいがアジの旨味を引き立てる。そこに薬味が加われば最強なのである。
昨日同様、私達は大いに酒を呑み。
いつしか眠ってしまっていた。
◆
8日目。1月4日の事である。
私達は仕事初めだというのに大爆睡。
友人は神経質で他人の家で眠れないらしいが、段々と慣れて10時近くまで眠っていた。
「今日も奈多に晩飯釣りに行くぞお」
「アジとコノシロたくさん食べよう〜料理はどうしようかな〜」
私達は奈多駅まで行き。『牧のうどん』をリピート。
私はざるそばとかしわ飯。友人は丸天うどんとかしわ飯。
そばは美味かったが。それ以上に眼の前の友人のうどんの丸天が大きくて旨そうだった。
うどんを食べ終えると私達は奈多漁港へと向かう。
天気が良いせいか堤防には釣座がたくさん。
私達も釣座を広げたが―自然に対して舐めた態度をとった我々は洗礼を受けた。
と、いうのも。まったく釣れなかったのである。釣り方は変えなかったが。
秘訣である魔法の粉―集魚剤―を使っていたのだが。まったく反応なし。
一応はコノシロとアジが1匹ずつ釣れたが。これじゃあ晩飯は貧相なモノになる。
私達は奈多駅へと帰る暗い道で反省会。
釣れなかった原因を考察する。時間が遅かった事、天気が良好で海の視界が良好であった事、釣座が多かった事…考えだせばキリがない。
「明日、Aやん帰るけど、どうする?」
「当然リベンジや!早起きして行くぞ」
「んじゃ、朝マヅメ狙うか」
「4時起きじゃい!!」
私達は家に帰ると。貧相な釣果でコノシロとアジ入り味噌汁を作る。
これが意外と沁みた。
荒れた心を癒やすかのような滋味。
明日のリベンジを誓いながらヤケ酒を
◆
9日目。1月5日の事である。
私達は宣言通り4時に起床し。朝の準備をすると電車に乗り込む。
いつもと違うのは友人が旅行かばんを下げていること。
そう。コイツは今日帰るのだ。少しアンニュイな気分とやっと帰ってくれるの気分が入り混じった微妙な感情に襲われる。
私達は早朝の博多駅の新幹線改札側、筑紫口に行き。
友人の旅行かばんをロッカーに
奈多漁港に着いたのは7時頃。ちょうど朝マズメの終わりであり。
私達は即座に仕掛けを組み、釣座を構える。
だがしかし―マズメ終わりの海は渋かった。
その後も。私達はいろんな場所に釣座を構えながら釣りをしたが。
全く釣れず終い。私がウキを無くしたのを機に帰ることに決める。
今日は坊主かと思いきや。老人の釣り人が譲ってくれたアジとサバがある。
今日の海も渋かったが。何故か私は他人からモノを貰いまくった。
家族連れの釣り人からはアミエサを譲ってもらい。老人の釣り人からは魚をたくさん貰った。
私達は夕方に家に帰りつき。
時間がない中でアジのなめろうとサバの味噌汁を作る。
二人で調理するのもこれが最後。そう思うと切なくもあり。
18時頃から晩飯に舌鼓。その際にアホな私達は酒を呑み始める。
一応、私は友人を見送りに博多駅に行くつもりなのでセーブしていたが、友人はビール2、3本にワインを1ボトル空けやがり。
「小田っち〜帰りたくねえ〜実家つまらん〜」37のおじさんは泥酔してダダをこねる。もう慣れたが異様な光景であることに間違いはない。
「新幹線のきっぷも払い戻すかあ?」一応、友人は9日まで予定がないらしい。
「それも魅力。だけどまあ…流石に帰るかなあ」
「ま。それが妥当だわな。もう俺もカネがない」私の財布から諭吉さんがいなくなって久しい。要するにもうこれ以上、友人を
「あ〜帰るのめんどくせえ」
「お前、ここで酔って寝るつもりやなかと?」
「…」
「黙るなや。まあ。いいけどさあ…」
「…帰るよお」
19時半になると。私達は最寄りの駅へと向かう。千鳥足で。
博多駅までなんとか到着。
新幹線までには余裕がある。時間を潰しにバスターミナルの喫煙所に向かう。
その道中、博多駅のペデストリアンデッキはライトアップされており。綺麗なモノだった。友人は名残惜しそうに写真を撮り。
私達はバスターミナルの喫煙所でタバコを吸う。
そこで脈絡のない話をする。何を話したかは忘れたが、友人が妙に切ない顔をしていたのは覚えている。
喫煙所で時間を潰すと。
私達は新幹線の改札へ。私は入場券を買ってホームまで見送る事にする。
時間を潰しても、なお時間があったので改札内のドトールに入り。
コーヒーを飲む。
そこで友人は熱く語っていた。主に福岡に来た理由を。
「久々に小田っちに連絡したら、うつでさあ。死にたいとか言い出すから心配で」そう言えば。私とAが連絡を取ったのが11月。ちょうど調子が悪くて、そういうメッセージを送った記憶がある。微かに。
「…済まんな」
「ええんやで」
「いつか。この9日間を懐かしく思う日が来るやろうか?」友人は遠い目をしながら言う。
「分からんねえ。俺達どっちもプーだからなあ」
「でも40になっても50になっても思い出せたら良いなあ」
「…そやね」
新幹線の時刻が迫り。私達は新幹線のホームに行き。
みずほを待つ。友人はその際に泣き出しそうになっていた。
それを見て、思わず私も泣きそうになったが。
「何泣こうとしてんねん」私は突っ込む。柄じゃないのだ。友人との別れで泣くなんて。
「だって…9日一緒に過ごして、一緒に釣りや料理出来るようになったのに」
「…また来いや。何時でも」
「…せやな」
そんな言葉を交わすと。新幹線が来て。
私は新幹線に乗り込む友人を見送り。走り出した新幹線を追いかけた。
だが。高速で走る新幹線に私の足が追いつく訳もなく。
友人は遠くへと消えて行った。
その時、初めて泣きそうになったが。我慢して。
私は新幹線改札をくぐり、いつもの電車に乗って帰って行った。
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