冷蔵庫
こた神さま
ある家族
私は、冷蔵庫である。
私の新しい家族は、お父さん、お母さん、小学五年生のお兄ちゃん、小学三年生のお姉ちゃん、生まれたばかりの赤ちゃんの五人家族である。
みんな、私を大切に扱ってくれて、私は、嬉しかった。
お母さんは、毎日、ピカピカに私の身体を磨いてくれて、私の中には、美味しそうな食材が沢山、入っていた。
毎日、笑顔の絶えない家族が私は、大好きだった。
私がこの家に来て、三年目の事。
いつも時間通りに帰ってくるお父さんが夜遅くに、ベロンベロンに酔っ払って帰って来た。
お父さんは、折角、お母さんが作ってくれた美味しい料理も食べずに、高いびきで眠ってしまった。
お母さんは、呆れた顔をして見ていた。
そんなある日。
お父さんとお母さんが大喧嘩を始めた。
どうやら、お父さんは、会社をリストラされ、毎晩、酔っ払って帰って来ていたらしい。
口喧嘩から掴み合いの喧嘩……そして、お母さんは、包丁を手にすると、お父さんを刺した。
倒れて動かなくなったお父さんを何度も刺す。
奥の部屋では、喧嘩で目覚めた赤ちゃんが火のついたように泣いている。
お母さんは、荒い息を吐きながら、フラりと立ち上がり、血の滴る包丁を持ったまま、奥の部屋へ向かった。
しばらくすると、血だらけの赤ちゃんをぶら下げ、お母さんは、戻ってきた。
お母さんは、何時間もかけて、台所で料理をしていた。
そして、私の中に、お父さんと赤ちゃんが入れられた。
何日か過ぎた頃。
お兄ちゃんがお母さんに、こう言ったんだ。
「ねぇ、お父さんと赤ちゃん、何処にいるの?」
お兄ちゃんの言葉に、お母さんは、満面の笑顔で、こう言った。
「居るじゃない……。ここに。」
お兄ちゃんも、私の中に仲間入り。
最近、私は寂しい。
あれだけ私を綺麗にしてくれていたのに、私の身体は、どす黒い赤に染まってしまった。
私の中の食材も腐りかけている。
お母さん……お母さん……苦しいよ。
お母さん……この調味料、賞味期限切れだよ。
お母さん……お母さん……。
今日も、お母さんは、台所で肉を切る。
新しい肉である。
学校から帰って来たお姉ちゃんが言ったんだ。
「お肉ばかりで飽きた。それに、お肉、臭い!」
今度は、お姉ちゃんも仲間入り。
しばらくすると、家に何人もの人がやって来た。
お母さんが何処かへ連れて行かれる。
お母さんは、ずっと、ケラケラ笑っている。
何人もの人は、私の中から、お父さん、赤ちゃん、お兄ちゃん、お姉ちゃんを取り出していく。
みんな、私の前から居なくなってしまった。
私は、冷蔵庫である。
今、私は、元の綺麗な白い身体に戻り、店の前に置いてある。
今度の家族は、私に、どんなドラマを見せてくれるだろう?
とても、楽しみである。
ー【完】ー
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