第14話 僕のリリア
広間に戻るとオルドが笑顔でリリアとシグルドを手招いた。
「二人とも出て行った時より親密な雰囲気になっているけど、何か心境の変化でもあったのかい?」
オルドの鋭い観察眼にリリアとシグルドはたじろいだ。
「シグルドは奥手も奥手!女性のことになると本当にポンコツだから、生きているうちに孫の顔が見られるか心配していたけど、これなら問題ないね!あーよかったよかったあ」
ニコニコ笑いながらオルドは立ち上がるとリリアの髪をそっとすくあげ、ゆっくりキスをしようと顔を近づけようとしたが、素早くシグルドの手がオルドの唇とリリアの髪の毛の間に滑り込ませてその行為を阻止した。
「シグルドは心狭いなあー。これくらいいいじゃないか。けちんぼー」
オルドはそう言うとニコニコ笑った。
「おやめください父上」
”父上の馬鹿!リリアの髪に素手で触れた上に口付けまで!許せん。リリアは僕の大事な女性なんだから、絶対誰にも触れさせない”
オルドは素早くリリアの手を引くと、自然な動作でリードしてダンスの輪に入ってしまった。
「父上!」
”リリアが!リリアが攫われた!どうしよう・・・泣きそう”
ダンスは一度踊り始めたらすぐに輪を離れることが難しい。
リリアは諦めてオルドに合わせてワルツを踊った。
(やっぱり親子ね。リードの仕方が似ているわ。それになんて優しいお顔。お考えは読めないけど、私のことを好意的に見てくれているのはわかるわ)
「リリア、シグルドのことはどう思っているのかな?私はディアナの忘れ形見のあの子が可愛くて仕方なくてね、私とディアナのように愛のある結婚をさせてあげたいのだよ。シグルドは君に夢中になっているけど君の気持ちはどうなのかな?」
優雅に踊りながらオルドはリリアに問いかける。その顔は微笑んでいるが返答によってはリリアを廃するつもりであるだろうことがすけてみえた。
リリアはその真っ直ぐな愛情に感動しつつ答えた。
「オルド陛下が心の底からシグルド様を愛していらっしゃること、伝わってまいりました。正直、婚姻のお話が来たときは戸惑いが大きかったのですが、お会いしていくうちに次第に心惹かれて・・・この短期間の間におかしいでしょうが、今はシグルド様をお慕いし始めているのです。オルド陛下のディアナ様に対する愛情ほどはまだ持てておりませんが、少なくとも、政略結婚で仕方なく・・・。とは思っておりません」
くるりとターンをするとふわりとリリアのドレスの裾がひらめく。オルドの肩越しに無表情のシグルドの顔が見えた。
「それを聞けて安心したよ。アルベルトからの書簡ではあまりいい返事ではなかったから心配していんだ。婚姻話をした途端、リリアが涙したと書いてあったからね。できれば時間がほしいとも。君の父君もうまく隠して報告すればいいのに馬鹿正直に書くから。不敬罪にとわれてもおかしくないのに、娘可愛さに本当に困ったものだよ」
不敬罪と聞いてさっと顔色が変わったリリアを見て、オルドは微笑んだ。
「安心して、アルベルトは信頼できる有能な人物だと思っているから、これくらいで処罰したりしないよ。むしろ正直なところを気に入っているんだ」
オルドは微笑んで、リリアをリードしながらダンスの輪から離れた。
輪からから離れた途端、シグルドはリリアをグイと引き寄せ、オルドとリリアの間に入り込み、自分の体でリリアを隠してしまった。
「かーわいいなあ。シグルドのそのやきもち焼きなところは私の若い頃にそっくりだよ。妃のディアナは美しくて無意識に周りの男達を魅了してしまって誘惑も多かったから本当に大変だったんだよー。リリアも美しいからシグルドも大変だね!」
嬉しそうに、懐かしそうに話すオルドは、亡きディアナとシグルドへの愛情に溢れていて、聞いていて微笑ましかった。
「心配は無用です」
”リリアは絶対に誰にも渡さないよ!もちろん父上といえどもこれ以上触れさせるものか”
(シグルド様は独占欲が強いのね)
リリアは少し驚いたけどすぐに納得した。シグルドは素手の指先が触れることができただけで大喜びしていたのに、他人に気安く触られたら確かに良い気分ではないだろう。
(これはかなり気をつけておかないと、シグルド様を悲しませてしまうことになるわね。王太子の妃に内定している私にちょっかいをかける男性なんていないでしょうけど、念には念をというもの)
リリアは決意を新たに手を握りしめた。
「そっかあ。じゃあリリアとダンスも踊れて楽しかったし、仕事をほっぽってきたからもう帰ろっと」
オルドはそう言うと歩き始め、リリアに小声でそっと耳打ちした。
「面倒な子だけどよろしくね」
それに答えようとリリアがオルドを見ると唇に人差し指を当ててウインクしてから広場を出て行った。
「オルド陛下はシグルド様のことを大切に思っていらっしゃるのですね。お忙しい中わざわざお越しになるなんて・・・ますます尊敬してしまいました」
リリアは教育係からオルドの治世について教えられてきた。人柄についても聞き及んでいたが、実際会ったオルドは思っていた以上に素晴らしい人物だった。
その言葉を聞いてシグルドはちょっと拗ねた様子で
「そうか」
”ずるい!父上なんて今ちょっと話ただけでそんなにリリアに思ってもらえるなんて!愛情なら僕のほうが負けないのに!悔しい”
と呟いた。
(二人の時は聞こえなかった心の声が聞こえる。シグルド様は他の人の前ではまだ本心を出すことが出来ないのね)
リリアは困ったことだと思いながら、自分だけがシグルドの本心を知ることができることが少しだけ嬉しかった。
「シグルド様、私の心の中にいるのは貴方様だけです。どうか、それを忘れないでください」
リリアはそう言うとシグルドの両手を自分の両手でそっと包む。
「そうか」
”うわあ!リリアが・・・リリアのてが僕の手を包んでくれてる。どうしよう、嬉しくて爆発しそうだ。リリアの手小さくて可愛い、愛しい”
シグルドは相変わらずリリアに対する溺愛を心の内に隠しているので、素直に愛情を伝えるリリアは周囲の人からは一方通行の気の毒な愛情に見えて気の毒がられてる。
「もう一度踊るか」
シグルドはそう言うと無表情でリリアの手を取る。
(素直じゃないんだから。可愛いシグルド様)
リリアは微笑んで立ち上がるとシグルドにリードされてダンスの輪に戻った。
やはりシグルドのステップとリードは完璧で、リリアはダンスを楽しむことができた。
「シグルド様と踊れるのとても楽しいです」
「父上と私とどちらと踊るのが楽しい?」
「もちろんシグルド様です。一緒に踊りたい方は貴方様だけ・・・」
そう気持ちを素直に伝えると、
「私もだ・・・其方だけだ」
そう優しく答えてくれた。
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