親愛なる仲間たち

西坂

第1話

無限の暗闇が広がる宇宙の中に、小さな宇宙船が一つ。


長期の宇宙滞在を終えた一行は、来たる地球への帰還に胸を躍らせていた。


人類の中から選ばれたクルー達で、国籍もバラバラだった。


文化も価値観も異なったが、共に長く暮らすことで、互いを家族のように思い、その絆は出会った頃とは比べられないほど強固になっていた。


長き共に過ごした日々が終わることに喜び半分、寂しさもあった。


宇宙船から地球を肉眼で捉えられる距離まで来たとき、船長は乗組員全員を中央デッキに集めた。


「諸君、いよいよこのときが来たぞ。見たまえ、我らが故郷、地球が目の前だ」


乗組員の一人、Aがそれに応える。


「はい、船長。とても感慨深く思います。ですが、この暮らしが終わるとなると、少し寂しさもあります」


それに呼応したかのように、Bが口を開いた。


「Aの言う通り、自分も寂しさを感じています。正直、出会った当初は、他のクルーに対して警戒心やライバル意識を持っていました。しかし今では我々は家族。離れ離れになるのは悲しいことです…」


涙が込み上げ始め、Bはさっと目を押さえた。


それを見て、残りのクルーも泣き出しそうになった。


それは船長も同じだった。


「落ち着け諸君、確かに地球に帰ると、皆それぞれの国に戻る。しかし、それは永遠の別れではない。たとえお互い離れていても、我々の絆は消えはしない」


船長の言葉はかえってクルーたちの涙を誘った。


泣かぬように船長が促していると、ピーピーと地球からの通信信号がデッキに響き渡った。


船長は通信ボタンを押し、それに応えた。


「こちらは宇宙船。どうぞ」


「こちらは管制室、特殊望遠鏡で君たちの船が確認できた。そろそろ着陸に備えてくれ。どうぞ」


「了解。準備に入る。着陸地点の座標を教えてくれ。どうぞ」


「了解。着陸地点だが、複数地点準備している。宇宙船にトラブルが起きたときに、どこにでも着陸できるよう配慮した。どこでも好きな地点に着陸できる。好きな場所を選んでくれ。どうぞ」


「了解。配慮に感謝する。決まり次第準備し、連絡する。どうぞ」


「了解。連絡を待つ。以上」


通信が終了し、船長は通信ボタンをオフにした。


「諸君、今聞いたとおりだ。これより着陸準備に入るが、まず着陸地点を決めなければならない。どこか希望はあるか?なければ私の方で決めるとする」


間髪入れずにAが手を上げた。


「船長それでしたら、私の国に着陸してはくれませんでしょうか。今回の宇宙滞在に我が国の国民が携わっているということで、連中大騒ぎと聞いております。それゆえ、我が国に着陸すれば他の国以上に祝福されることでしょう。もちろん私だけでなく、この船のクルー全員がです。それは最高の名誉です」


「なるほど。名誉か。それも悪くないな」


船長の前向きに考える様子を見て、危機感を感じたのか、さっとBが割り込むように言う。


「船長、お待ち下さい。私の国にぜひ着陸してください。たしかにAの言う名誉は素晴らしいものです。ですが、名誉だけでは我々の苦労は報われません。私の国はご存知の通り、とても豊かな国です。今回の宇宙滞在にも国全体が注目しております。きっと我が国に着陸すればAの母国よりも大きな祝福を受けるはずです。それは莫大なお金に姿を変え、我々の苦労を労っていれるはずです」


「うーん…確かに我々の苦労が莫大な金になるのは何とも魅力的だ」


決めかねている船長を尻目に、今度はCが主張を展開し始めた。


「待ってください。名誉も金も魅力的ですが、今回の宇宙滞在の最大の功労者は我が国の最新鋭の科学技術です。それがなければ、この滞在も不可能でした。ですので我が国に対して、見返りがあっても良いはずです。船長、どうか我が国に着陸し、国家と国民に見返りをください」


「この船は君の国の科学技術抜きでは成り立たなかったのは確かだ。恩に報いるなら今がそのときかもしれないな」


すると今度はDが…その次はEが…そしてまたAの主張に戻りと、堂々巡りが続いた。


最終的に判断を下すのは船長だ。


しかし、それぞれの主張がどれも正当性があるため、なかなか判断を下せなかった。


クルーの話し合いは徐々にヒートアップし、お互い落とし所を見つけるのも難しい様子だった。


そんなクルーたちを横目に、船長は通信ボタンを押し、管制室に連絡を入れた。


「こちら宇宙船、着陸地点だが、どこになるか決まるのはまだ時間がかかりそうだ。どうぞ」


無限の暗闇が広がる宇宙の中。


小さな宇宙船はポツリと宇宙空間を漂っていた。

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