クランクハイトと痛覚の胎動
藍染三月
序章「──心中」
「doppelselbstmord」
鳴り満ちた銃声の余韻が、鼓膜を焼いていく。痛みに引きずり出された呻き声は不思議と聞こえない。今は痛みさえどうでもよかった。
飛んだ鉛玉は二つ。私のものと、彼のもの。
彼は優しいから、約束通り私の胸を撃ち抜いてくれた。私は弱いから、撃つ前にほんの少し照準をずらした。
二人きりの屋敷で、共に瞑することが出来たならどれほど幸せだろう。
『一緒に逝こう』と、彼に告げた言葉は嘘じゃない。
痛みを知らない彼は、痛みしか知らない私に、痛みのない日々を与えてくれた。このまま私が横たわるのも優しい痛みの中だ。それが嬉しくて彼の手を握ろうとした。
重い瞼はおりたまま、交差した睫毛をほどけぬまま、彼の熱を辿る。あたたかな腥血を頼りに指を絡ませた。溶け合う体温が心地よかった。
──私は貴方の『痛み』になれるかな。
人は、大切な存在を失った時にも痛みを覚えるという。
だから、もし。銃口を逸らした私の弱さが、彼を生かしてくれたなら。
──神様、どうかこの人に、正常な痛みを。
*
一九××年、十二月。××通りにある民家で少女の遺体と意識不明の男性が発見された。室内には拳銃が二丁落ちており、少女と男性が互いに撃ち合ったと思われる。少女は×月から捜査されていた小児連続殺人事件の被害者全員と接点があり、警察は事件との関連や、少女と男性の関係について調べている。また、民家の別室には白骨化した遺体が──。
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