第17話 番神との決闘

俺はアッシュの精神世界から目が覚めた。

「おかえりなさい小次郎さん。すみません、あの大男、前の魔法で学習したのかもう拘束から逃れそうです。」

「ありがとう。でも大丈夫だよ。」

そう聞いたマーガレットは安心したような笑顔で俺に聞いてきた。


「それじゃあ、会えたんですね!アッシュはなんと言っていたんですか…?」

「…君を愛してたって言ってたよ笑」

彼女はさらに嬉しそうに少し涙を浮かべながら微笑んだ。

「そうですか笑 アッシュ、元気なようで本当に…良かった」

「あの野郎も起きるところだ。さぁ、ハッピーエンドにしようか。」

「はいっ!」

元気よくマーガレットが言ってくれたおかげでもう完全に緊張も解けた。不思議と今ならなんでもできる気がする。


ヘイムダルが起き上がる音がした。どうやらかなり怒っているようだ。

「いい加減にしたらどうだ。ふざけるのも大概にしろ。」

「もう大丈夫だ。お前に決闘を申し込む。」

彼は少し黙ったあと気難しい顔になって、斧の石突きを地面に叩き付け大きな声で言った。

「…誇り高き神族の父アーヌラ・オーディンズの名のもとに我、番神ヘイムダルは盗賊吉川小次郎の決闘の誘いを受理しよう!」


「さぁ、始めようか!アッシュ!|調律者(レギュレーター)!!|歪みの掌握(ベンドグラスプ)!」

俺の魔力も体力も消された持ち物も全て元通りになった。

「あの魔法は…アッシュのメインスキル!|調律者(レギュレーター)!魔力や圧力、物体や魔法そのものの凸を削り凹を埋め、その両者をくっつけることもできる魔法。極めれば神にも等しい管理者権限を持てるという…。」

「それが今習得したもう一つのスキルか。スキルの複数所持など神族でもそういないぞ。それに使いこなすのが難しいそのスキルをこうも簡単に使ってみせるとは…。」

「アッシュはこの魔法を使っても元を取れるほど魔力を回復できないようだったが、俺なら魔法を使っても使う前より回復できる。つまり俺の魔力は半永久的に尽きることはない。」

「無限の魔力…神族への冒涜だ。許さん。」

「お褒めの言葉をどうも笑笑」


「認めよう。私も少し、本気を出そう。|神斧光嶺(アックスエクレール)!」

青白い光を斧に纏わせ斬撃を飛ばす。今まで感じたことのないかなりの魔力を感じる。

「いきなり飛ばすじゃねぇか。こっちも最大出力だ!|緑炎閃(ヴェールフラム)、|岩剪刀(フォルフェックス)、|融合(ゆうごう)!|緑炎岩剪(ターリーシザー)!!」

炎魔法で魔力の極めて高い緑炎と、岩魔法の巨大なハサミを|調律者(レギュレーター)で融合させて巨大な緑の炎を纏ったハサミを繰り出し振り回した。ヘイムダルの斬撃をかき消すことができた。そのままヘイムダルのところにハサミを飛ばした。ヘイムダルは戦斧でハサミの刃を受け止め粉々にした。


俺は粉々になった瞬間の砂煙に紛れてヤツの懐に入り、魔力を流した剣を突き刺した。

「見事だが、残念だ。浅いぞ」

「あぁこれからだ。|雷豪伸剣(ライジングテンド)!」

剣先をはるか先まで伸ばし遠くの神殿の壁をも貫いた。なぜか壁の他になにか他の物が当たった感触があった。

「見事だな。その魔法は柄しかない剣に雷の刀身を付けたり折れた剣先を雷で補うだけの魔法のはずだが、|調律者(レギュレーター)でここまで伸ばせるものとはな。」

「それだけじゃないさ。|嵐乱蒼舞(テンペスト)ッ!」

ヤツの体内に入った雷魔法の刀身からさらに雷魔法と風魔法を散らせた。ヘイムダルは血を飛ばしたが致命傷になる前に転移した。


「今のはさすがに答えたが、私の回復魔法の前では意味をなさないぞ。」

俺は剣の雷魔法を引っ込めて元の状態に戻した。

「やっぱりそうだよな。だからお前の体内にまだある電気エネルギーを毒性のある雷魔法に変換する!」

俺はやつの方に手をかざして魔法性質の変化を|調律者(レギュレーター)を使って実行した。

「これは…魔力出力が制限されているだと…?!」

「すごい、神族は魔法の耐性が強いはずなのに…しかも遠隔での魔性質変化なんて、」

マーガレットもかなり驚いているようだ。


「これで対等に勝負できる…さぁ!行くぞ!|釁隙狂盗(アクシスヴォール)!」

空間ごと|盗賊(バンディット)スキルで削って距離を詰めつつあいつの巨体ごと消す。

「まずい…!」

ぎりぎりでかわされたが、左腕の端だけ削れた!

「貴様!消し炭にしてくれるわ!|聖墓の混沌(セメタリーカオス)!」

戦斧を地面に叩きつけ足元から闇魔法を発動した。俺は直感で当たるとまずいと思った。

「|身体強化(エンハンス)!」

強化魔法をさらに自分にかけて高く飛んで闇魔法を避けた。俺は飛行魔法で空中にとどまり続ける。

地面が次々とやつの濃い闇魔法に染まっていっている。

「なんだこれは…とんでもなく邪悪な魔力を感じる…。」

「いい判断だ。触れると体は原型を留め消えれずに崩れ、回復は不可能になる。だがそれだけではないぞ?さぁ蘇れ!|黄泉の甦生(ブルータルグレイブ)!」

闇魔法に浸食された地面から巨人族のゾンビのようなやつが十数体出てきた。空中にいる俺に向かって巨人ゾンビたちは殴りかかってきた。

「こいつらまさか…」

「死者の国ヘルヘイムから無理やり連れてきたゾンビだ。肉体も朽ち果てて魂も地獄で腐りはてている罪人だ。」

死者の冒涜…命をなんだとおもってるんだこいつは。

「許してくれ、名も知らぬ巨人よ。安らかに眠ってくれ。|大黒炎界呪(リクリメイション)!」

俺は空中で印を結んで巨人たちを黒い炎で焼き尽くした。炭も残らず焼き切ったためゾンビでも回復させずに消せた。巨人の恐怖に満ちた目と合ってしまった。


「ヘイムダル、俺の今出せる最大魔力出力をお前にぶつけてやる!」

俺は上にいるから地の利はあるが彼には意味がなさそうだ。

「やってみろ!吉川小次郎!!こっちも最大で受けて立つ!」

俺は飛行魔法ではるか上空に飛んである程度飛んだ時に魔法を解いた。全てをあいつにぶつけるのに集中するためだ。

俺は全力で魔力を右手に込めると、ヘイムダルも高くジャンプして戦斧を振りかぶった。降下してやつの目の前にまで来たとき、貯めていた魔力を一気に解放した。

「|冥月大閃光(ディスペアショット)!」

「|天脊虹橋(アルカンシエル)!」

俺はレーザーのような光魔法を放ち、ヘイムダルはそれを相殺しようと虹のような七色の輝かしい光魔法放った。


「小次郎さん!!!」

ずっと観ていたマーガレットが叫んだ声が爆発音とともに響いた。

大きな光と爆破の風圧が辺りの神殿を崩していった。

爆破が終わると神殿の瓦礫が辺りに散らばり殺風景になったが、二人の姿は見えなかった。

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