第8話
辺境地近くの、別荘に移って一ヶ月経っていた。別荘に来たときは、あまりにも綺麗で驚いたものの、それ以外になにも起こらずまったりした日々を送っている。
カサンドラの朝はシュシュと共に寝坊して、ゆっくり食事をとり。別荘の掃除、近場へのお出かけを楽しんでいた。
本日は天気のいいテラスで、シュシュとお茶を飲みながら、まったり読書中。
「はぁ~王妃教育をしなくていいなんて、夢見たい(冷たい両親と、妹にも顔を合わせなくて済むし)」
いつもだと。早朝、馬車で登城をして礼儀作法、話し方に始まり、書類整理、ダンス、お茶会の開催日程の確認。それが終わると隣国の経済、物流の確認。言語の違う国の言葉、物価、特産品などなど……やる事も、覚える事は山ほどあった。
出来ないと、教育係の婦人に棒で叩かれた。
(小さい頃は泣きながら、覚えたものね)
舞踏会でアサルト皇太子殿下に婚約の破棄を言い渡され、断頭台を回避して、王妃教育は終了したのだけれど……。
――まだ気は抜けない。
あれから一ヶ月も経つのに、アサルト殿下と妹シェリィの婚約発表が国からまだ無いのだ。
(両親のあの喜びようから婚約破棄の書類、婚約のときに交わした契約書などは受理されたはず。早く婚約発表をして、ホッとさせてほしいわ)
カサンドラはテラスで読んでいた本を置き、シュシュがいれてくれた紅茶を一口飲んだ。
「あら、この紅茶とても美味しい。香りと味が私好みだわ。シュシュ、この茶葉は何処で手に入れたの?」
「その茶葉は、別荘近くの村で採れた茶葉です」
「別荘近くの村? ――あぁ少し前、散歩に出たときに寄ったノーラ村のことね。その村で食べた、揚げた揚げ菓子が美味しかったわね」
――確か、名前は『丸揚げ菓子』だったかしら?
「はい、かなり美味しかったです。あの後、ノーラ村で作り方を聞いてきたので。明日、一緒に作りますか?」
「まぁ、シュシュは作り方を知っているの? もちろん作るわ」
上に立つ貴族たるもの、身につける品、飲む物は一流品でならなくてはならないと習った。いまは自分好みのお茶、お茶請け、カサンドラは好きな物を食べられる。
(お茶請けの、シュシュの手作りクッキー美味しい、別荘ライフは最高ね)
「食後に飲む自分好みの紅茶、シュシュ手製バタークッキーはとても美味しいわ」
次々と、バタークッキーに手が伸びるカサンドラに、シュシュは眉をひそめた。
「カサンドラお嬢様、大変言いにくいのですが……」
「なに?」
「心を鬼にして申します。お嬢様は別荘に越してから、少々食べ過ぎだと思われます。たまには運動もなさった方がいいです」
(運動?)
「まぁシュシュ……私、太ったの?」
「はい、二、三キロは……ゆうに、太ったと思われます」
(二、三キロも? どうりで最近、新調したワンピースの腰回りがキツイはず。別荘に越す前へに着ていたドレスなら余裕で入るのだけど……あれを着たら、負けのような気がして着たくないのよね)
「……シュシュ、隠さずに教えてくれてありがとう。私、庭を散歩してくるわ」
「はい、カサンドラお嬢様お気をつけて」
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