第6話

 アサルト皇太子殿下から婚約の破棄を受け入れ、屋敷に戻り、カサンドラは両親に舞踏会での話を伝えた。

 

 この話に両親は。


『そうか、今すぐ書類をまとめる。次の婚約者はシャリィだな……よかった』


『よかったわね、シャリィ』と、手をとりあって喜んだ。


(ここまでくると笑っちゃうけど……すぐ婚約破棄に必要な、書類を出してくれるわね)

 

 これで婚約式のときに交わした、契約書、書類などが王家に送られ受理されて。カサンドラとアサルト皇太子殿下の婚約破棄が貴族達に発表され、次の婚約者には妹のシャリィが選ばれるだろう。


(そうなれば、しばらく私は社交界で殿下に婚約破棄された傷物と言われ、普通の結婚も出来ない――というか、結婚なんてしたくない)


 そう考えた、カサンドラは両親に申し出た。


「お父様、お母様にお願いがあります」


 この公爵家を離れて、何処か遠くで静かに暮らしたいと伝えた。二人は婚約破棄され、シャリィの邪魔になる厄介者のカサンドラを追い払えると喜び。お母様から、母方のお祖母様の別荘の話を聞かされる。


「ねぇカサンドラは静かに暮らしたいのよね。それなら、私が辺境地に保有する、お祖母様の別荘を貴女にあげるわ。毎年、税金を払わなくちゃいけないから……ちょうど売り払おうと思っていた所なの」


 と、お母様から古びた別荘の鍵を貰った。

 そして、お父様からは。


「書類が受理されたら、王家から婚約破棄の慰謝料がカサンドラの所有する銀行にはいるだろう」


 それとは別に。毎月わずかだけど、お父様から生活費を銀行に入れてくださる、約束をいただいた。


(手切れ金かしら? 幸せになるシャリィの邪魔をするなと言いたいのね。私も、みずからギロチンへの道に近付くなんてこと、するつもりはないけど……慰謝料と毎月、お金がはいるのはいい話ね)


「ありがとうございます、お父様、お母様。荷物の準備が整いましたら――すぐに、その別荘に移動しますわ」


「そうか。書類などはこちらでやっておくから、何も気にしなくて良い」



 二人に就寝の挨拶をして、カサンドラは部屋に戻り。いつも悩みこと、話し相手をしてくれた専属メイドのシュシュに、別荘へ行くことを伝えた。


「別荘に行く? カサンドラお嬢様は辺境地近くの別荘に行かれるのですか?」


「ええ、そこで楽しいことを見つけて、のんびり余生を過ごすわ」

 

「カサンドラお嬢様、わたしも連れて行ってください……この屋敷には残りたくありません!! 嫌と言っても、無理にでもついて行きますから」


 シュシュは袖をまくり、旅行鞄とトランクケースをクローゼットから取り出し、荷物の準備に取りかかる。


「一緒に着いてきてくれるの?」

 

「もちろんです! こんな所に残るより……カサンドラお嬢様のお側がいいです。趣味もあいますし」


「嬉しい。ありがとう、シュシュ。一緒に別荘へ行きましょう」


 二人で協力して、必要な荷物をカバンとトランクケースにまとめた。

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