第3話

 私、一度死んでいるのね。カサンドラがそう口にしたとき、また強烈な頭痛が襲う。

 

(ヤダ、やめてぇ怖い……もう、何も見せないで――!)


 数分後、カサンドラは庭園の片隅で更に体を更に震わせた。


「私……嫉妬にかられて、なんて事をしたのよ。あんな最後になっても、仕方がないじゃない」

 

 あの日のカサンドラも。婚約者アサルト殿下と妹のキスシーンを見てしまった。嫉妬にかられ、妹のシェリィにひどい仕打ちを始める。


『カサンドラ、やめなさい!』

『うるさい! あなた達もアサルト様とシャリィの事を知っていたのね……酷い!』

 

 この時ばかり、話しかけてきた両親の話も聞かず。

 

 顔を合わせれば、恨みつらみごとは毎日で。

 屋敷、舞踏会ではワインをかけて、妹のドレスを汚し。足を引っ掛けるは……階段から落とし、皇太子から妹に贈られたドレスは切り刻み、宝飾品まで壊した。


『シャリィ! それは私が、アサルト様に貰うはずだったのよ! なぜ? あなた持っているの?』


『……ごめんなさい、お姉様』


 カサンドラがいくら暴言を吐いても、妹は謝るばかり。そのことを全て、カサンドラの知らない所で、涙に変えてアサルト殿下に伝えていた。

 

 実に巧妙で、

 緻密な計画。


 カサンドラが徐々に狂い破滅するよう、アサルト様の気持ちが自分に向くように、妹は道筋を作った……やはり、前のカサンドラは妹の手の上で踊らされて、妹の思惑通り闇堕ちした。


『なぜ、なぜなの? アサルト様は私を見ない。嫌よ、私が一番、貴方を愛しているのに……』


 二人を引き離そうとしても離れない……


 とうとう思い詰めたカサンドラは、邪魔な妹に毒を飲ませて殺そうとした。それ程までにカサンドラはアサルト殿下を愛していた。

 

(愛が、重すぎるわ……私もアサルト殿下の事は愛してはいるけど、死ぬほどは愛してない)


 でも、その気持ちもわかる。

 



 だけどいまは。いろんな情報が重なって頭が追いつかない。ひとつ分かったのは、大聖女マリアンヌ様はカサンドラの願いを叶えて、時を戻した。


(どうして、あなた様は私の願いを叶えたの?)


 カサンドラは噴水の中央に建つ、大聖女マリアンヌの銅像を見上げた。


(――え?)

 

 いつもは王城を見守るようにして見つめる、マリアンヌ様の瞳はカサンドラを見ていた。それはまるで『手を貸すのはここまで、後は自分で道を切り開きなさい』と、言っているかのように見えた。


 マリアンヌ様の慈愛の心。


「あぁ……マリアンヌ様」


 貴女様に頂いた、この二度目の人生。

 カサンドラは『同じ道は進まない』と誓った。

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