その2 老婆の記憶

 あれは終戦の翌年、夏の夕暮れどきでした。


 うちの町中にあった空き地で弟と妹、それと近所の子供たちと遊んでおりました。


 すると一人、ボロボロの兵服を着た帰還兵らしき男性が私たちに近付いて来たのです。


「お嬢ちゃん。ここにあった家は・・・家の人たちは知らないかい。」


 私は首を横に振りました。すると近所の子が一人こう言ったのです。


「ここの家には爆弾が落っこちて、みんな死んじゃいました。」


 男性は両目をパッチリ開いたまま、しばらく動きませんでした。そのうちに髭に囲まれた口の白い歯からカチカチと音がして、微かに全身が震えているのが判りました。


「俺は、なんの為に帰って来たんだ。」


 そうとだけ言って男性はフラフラと、暮れなずむ町中の夕陽に吸われていきました。


 男性のその後は、私には判りません。

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