魔法少女『シリアル☆キラー』

哀上

プロローグ

『プロローグ』

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「僕と契約して、魔法少女になってよ!」


その日、少女は不思議な生物に出会った。

契約が結ばれ、また1人の魔法少女が誕生する。

そんなありふれた物語……


しかし、それが全ての悲劇の始まりだった。


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 大通りから一本奥に入った脇道、そこを1人の少女が行く当てもなく歩いていた。

 人通りもまばらで雰囲気も薄暗い。

 罷り間違っても女子供が好んで来るべきような場所ではない。


 もう夕方だと言うのに『CLOSED』の看板が掛けられたままの店が幾つも並ぶ。

 ここは他の場所と1日のサイクルが違うのだ。

 あと数時間もすればケバケバしいネオンに照らされ彩られることになるだろう。


 欲に溺れた男と女の社交場、お風呂場で出会った2人が恋に堕ち肉欲のまま身体を重ねる。

 そんな、恋愛リアリティーショー以上の無茶な前提の上に成り立つ珍事が頻発する。

 もしそれが本当なら、ここは恋結びに置いてこれ以上無いパワースポットという事になるのだろう。


 そして、こんな場所に居る少女もまた欲に溺れた側の人間である。


 今日の稼ぎは、1枚2枚……5万円って所か。

 まぁまぁ、だな。

 黒い革財布から万札を抜き出し、用済みになった入れ物は川に投げ捨てる。


 私の容姿はそこそこ以上に恵まれているらしい。

 以前から自覚はあったが、こういった場所に身を置いていると余計に実感する。

 ただ歩いてるだけ、それだけで男共から際限なく声を掛けられる。


 実に好都合な話だ。

 口車に乗せるまでもなく、簡単に人目の無い場所まで誘導出来る。

 その後はいつも通り、ただの流れ作業である。


 ほとんどの場合、時間にして10分にも満たない程度で片が付く。

 これだけで数万円って、笑っちゃうよね。

 時給1000円程度のバイトで真面目に働くのが馬鹿みたいだ。


 仮にキャバクラやお風呂屋さんで働くにしても、だ。

 時給4桁後半は硬いにしても、5桁にはなかなか乗らないだろう。

 6桁なんて夢のまた夢、しかも拘束時間が半端なさそう。


 いや、実際問題一度たりともそういうお店で働いたことが無いから内情は詳しく知らないんだけどね。

 ただ、そんな世間的に言えば高時給の仕事ですら真面目に働くのが馬鹿らしく思えるって話。

 そもそも私未成年だし、身分証明書なんて物も持っていないから働くなんて選択肢は初めからないのだけれど。


 私が大金を稼ごうとして出来ることって言ったら、パパ活ってやつくらい?


 こんな簡単に稼げるのに、わざわざ法を犯してまで自分の体を売ってる人らの気持ちも理解できないが。

 いや、別に行為そのものに忌避感はないのだ。

 実際、私の貞操観念はそれほど強い方ではない……と思う。


 ただ単純な話、数万円のために何時間もかけていたらコストパフォーマンスが悪くないだろうか?

 どうせ同じ犯罪なのだし。

 ならコスパいい方を選ぶのは自然の摂理、でしょ?


 ま、私のこの行動が趣味と実益を兼ねてるのと同じように、その娘がそういう行為が大好きだって言うなら私からは何も言うまい。

 実際、男どもは大金を払ってでもしたいみたいだし?

 行為自体が好きで金よりむしろ……、そう考える娘がいても不自然ではない。


「ねぇ、そこの君。もしかして今暇してる?」


 ぷらぷらと行く当てもなく散歩していたらまた釣れた。

 髪を染めた若そうな青年。

 いや、若そうとは言っても私よりは一回り以上年上だろうけど。


 目は口ほどに物を言うとは聞くが、ここまで分かりやすいのも珍しい。

 その視線は見るからに欲に支配されていた。

 少しぐらい隠す努力をした方が狩りの成功率も上がりそうな物だが。


 さっきのおっさんでしばらくの生活資金としては十分。

 しかし、せっかく鴨が葱を背負って来てくれたのにそれをわざわざスルーする必要もない。

 噂が広まったらまた移動する羽目になるのだし。


 ……うん。

 さっきのおっさん相手に楽しみ過ぎて結構使っちゃったけど、まだポケットにカッターが何本か残っている。

 この青年が相手なら、まぁ一本あれば十分か。


「なぁーに、お兄さん?」


 首を傾け、彼の胸板に軽く触れる。

 女の子からの積極的なボディータッチ、駆け引きなど無く物理的にも精神的にも一気に距離を詰めてしまう。

 もちろん話し方は猫なで声だ。


 我ながらキッツい。

 自覚はある。

 普段なら絶対やらない行為だ。


 しかし、私の容姿には似合ってるらしいのだ。

 その証拠に、本来ならドン引きものの私の行動に彼の顔が真っ赤に染まる。

 ……そっちから声かけて来たのに、照れすぎでは?


「ひ、暇なら一緒に食事でもどうかと思って」


「えー、私回りくどいのはキラーい」


「じゃ、じゃあ……」


「いい場所知ってるから、案内してあげる」


 この手の相手に余計な言葉は必要ない。

 男に任せて、食事してデートしてとテンプレートを一通りこなしてみた事もあったが、結論から言えば全部時間の無駄だった。

 適当に話を切り上げ腕を組む、男って生き物はそれだけでまともな思考が回らなくなる。


 これでいっちょ上がり、っと。

 後は彼の事を人目の無い所まで連れて行って、そのまま……

 今までと同じ事だ。


 どんな場所に誘導しようと疑問に思われる事すらない。

 流石に日本男子の警戒心が薄過ぎるのではと思う。

 まぁ、私にとっては好都合でしか無いので男の警戒心はこのまま低くあってほしい物だが。


 噂が広がるまで、しばらくはここで稼がせてもらおうかな。


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