くじらくん、そらをとぶ

碧色

くじらくん、そらをとぶ

くじらくんは泳ぐことが大好き。友達のイルカくんや魚たちと一緒に並んで泳いでいると楽しくてつい時間を忘れてしまいます。


ある日、くじらくんは空に魚のような影を見ました。見間違いかもしれませんが、空は泳げるものなのかもしれないと思うとくじらくんはワクワクを抑えきれませんでした。くじらくんは泳げるところは全部泳ぎたいのです。しかし、何度ジャンプしても空には届かず、水面に戻ってぶつかります。

ざばっばしゃん、ざばっばしゃん。

そこでくじらくんは、友達のイルカくんに相談しました。イルカくんは

「1回深くまで潜ってから勢いをつけてジャンプしたらどうだろう」

と言いました。

くじらくんは他に方法も思いつかなかったので、それを試してみることにしました。友達としばらく離れることになるのでその前に一緒に目一杯泳ぎました。その時にイルカくんが

「もし空に行けたら、空がどんなだったか教えてね」

と言ったのでくじらくんはよりやる気になりました。


そして、くじらくんは深く潜り始めます。最初は空へのワクワクで楽しみながら潜っていました。しかし海はだんだん暗くなり、だんだん重苦しくなります。怖い魚たちが遠くからくじらくんのことを見ています。そこにはいつも泳いでいる友達はいません。どんどんくじらくんは寂しくなって、どんどん空に行くのをやめたくなってきました。空なんて泳げるわけが無いし、空の魚も見間違いだったと思えてきました。しかし、イルカくんの言葉をふと思い出しました。イルカくんはくじらくんの空の話を楽しみにしています。くじらくんは自分のためだけではなく、友達のためにも頑張ろうと思い直しました。そしてついに深海に辿り着き、そこから真上に泳ぎました。ぐんぐん海を上がって、ぐんぐん速くなっていきます。そしてついに水面から飛び出ます。その時、イルカくんが近くにいたのが見えました。


くじらくんの体はそのままの勢いでどんどん浮かんでいきます。ぶわーぶわーと飛んでいき、大きな雲にふわりとぶつかって止まりました。周りを見渡すと、そこは綺麗な空の中でした。空は水の中と同じように泳ぐことが出来ました。ゆっくりふわふわと泳いでいると、遠くから小さい雲が近づいてきます。よく見てみると、実はその雲は白くて小さい魚の群れでした。くじらくんが見たのは本当に魚だったのです。その魚の群れとくじらくんは並んで泳ぎます。ふわふわ、ふわふわ。楽しくてくじらくんはいつまでも泳いでいました。しかし、色々あった疲れからか、くじらくんはいつの間にか眠ってしまいました。


目が覚めるといつもの海に帰ってきていました。もしかしたら夢を見ていたのかも、とくじらくんは思いました。本当は空を泳いではいなかったのかも、と。しかしくじらくんはそれでもいいや、とも思いました。くじらくんはなんだかとても満足しました。イルカくんや他の友達に今日の話をしに行こうとみんなのもとに泳ぎ始めました。

くじらくんの後ろに1匹白い小さな魚が着いてきていることに気づくのは、今では無いようです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

くじらくん、そらをとぶ 碧色 @chan828

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ