第24話 ただ少し話したいだけ
「栄人君、新刊入ったから店頭に平積みで並べといてくれ」
「はいっ!」
店長からそう言われて俺はせっせと新刊の入った段ボールを運び、中身の本を取り出して言われた通りに並べていく。
終わったらやりかけであった本の整理をまた始める。
「いらっしゃいませー」
そう、今俺がやっているのは本屋のバイトだ。
といっても駅前の本屋のように繁盛した場所ではなく、ここは駅から微妙に離れているが故にそこまで多くの客が来ない小さな本屋だ。
そのため、俺はいつもこうやってぼーっと本の整理をしながら客が来たら挨拶をする、というのを続けていた。
「栄人君! 悪いけど僕は休憩入るからレジ頼んでもいいかい?」
もう一人のバイトである先輩にそう言われ俺はレジの前に立つ。
本の整理と違ってレジだと人が来ないとやることがないため暇だ。
仕方がない、窓の外でも見てぼーっとするか。
「あ、あの〜! お願いします」
「はい、かしこまりました」
俺は受け取った本のQRコードをスキャンし……ってこれは児童書?
俺はチラリとカウンターの方を見るとそこには中学1年生くらいの少女が財布を持って固まっていた。
なるほどね、確か――
「はい、では606円になります」
「……はい、これで」
彼女の小さく真っ白な手から百円玉6枚と一円玉6枚が渡される。
「ちょうど頂きます、袋はおつけしますか?」
「お、お願いしましゅ」
つい、彼女が噛んだの聞いて彼女の方を見たくなるが俺は鋼の心でそれを制御する。
ふぅ……これは反応しちゃダメだ。
相手は中学一年生、緊張で噛むことくらいあるだろう。
「ではこちらになります」
俺はレシートと本……そして栞を袋の中に入れていく。
「あ、あのっ! 私、栞買ってませんよ」
うちの店長は子供好きであり、子供に本を好きになって欲しいという思いから中学生以下っぽい客が来たら栞をつけるように言われているのだ。
「実は中学生以下には栞は無料でおつけしていますので」
俺がそうやってそのことを彼女に伝えたが――。
「いや、私、高校生……です」
「え?」
こ、こここ高校生?!
「え、あ、ああ……すみません。凄くお客さんがお若く見えたので」
「い、いえお気になさらないでください。私、高校2年生なのによく小学生と間違えられるんです」
ちょ、ちょっと待て……今、彼女は高校2年生と言ったか?
完全に俺より年上じゃないか!? それなのにこんな身長低くて声も幼くて手も小さいのか?!
「そうだったんですね。すみません……お詫びと言っては何ですがこの栞はお渡しします」
「ええ?! わ、悪いですよ」
「いえ、僕が間違えたのが悪いですし……それに児童書ということは妹さんにでもその本、渡すんじゃないですか?」
「そ、そうです……!」
「でしたら妹さんにその栞は渡してください」
俺がそう言うと彼女はペコペコと感謝をして店から出ていった。
流石に年上の人を完全に年下だと思って対応してそのまま帰すわけにはいかないからな。
喜んでもらえたのなら何よりだ。
――――――
「ふぅ……疲れたしちょっとコンビニでアイスでも買って帰るか」
朝からバイトを始め、もう今は2時だ。
流石にお腹も空いたし疲れもした。
というわけで俺は最寄り駅のコンビニに寄ろうとしたのだが……。
「忘れてた、ここってあいつが働いてるコンビニじゃん」
外から店内を覗いてみるがレジに眞白らしき人物はいない。
よかった、どうやら眞白はシフトが入っていないようだ。
俺は安心して店内に入り、アイスクリームコーナーに足を運んだのだが――
「――っ?!」
なんと、パンコーナーの方で眞白がしゃがんで品出しをしていた。
不味いと思った時にはもう時は遅し、ちょうど品出しが終わった様子の眞白は立ち上がり――
バッチリ目が合ってしまった。
「…………」
「…………」
気まずい。
ただそれだけだ。
でも、もう気にすることはないのかもしれない。
もう俺たちは何の関係もない他人同士なのだ。
俺は開き直ってアイスを物色し、テキトーなものを持ってレジに向かう。
が――
「ねえ、ちょっと待って欲しい」
後々考えたら立ち止まらない方が良かった。
そのまま聞こえていなかったことにしてレジで会計してすぐに店から出れば良かった。
「この後時間ある? 私、もうすぐバイト終わるから」
「話すことなんてないと思うけど」
だから、今まで話してこなかったんだろ。
なんで今更声かけてくるんだよ。
「別に未練とかじゃない……ただ少し話したいだけなの」
俺はその言葉を聞いて持っていたカップアイスとは別にソフトクリームを手に取り、何も言わずにレジへ向かった。
脅されてヤンキーの彼女をナンパした。なんか成功してしまって今修羅場。仲深めたらヤンデレ化してきてさらに修羅場。 わいん。 @wainn444
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