リハビリ
自分の部屋に好きな人が入るって、こんなに恥ずかしいもの?
レオさんに抱かれたまま、自分の部屋に入った。見た感じ、誰かが掃除してくれたみたいで、きれいでホッとする。
レオさんが私をそっとベッドの上に載せると、ミルルが布団をかけてくれた。今さら、自分がネグリジェのような寝巻き姿であることに気づいて、恥ずかしくなる。
きっと、すっぴんだし、お風呂にも入ってないし、ああ、本当だったら、ドレス姿を見てもらいたかったのに。
あ、斬られたボロボロのドレス姿は見られているんだ。顔を隠したいけど、手は動かない。それより、お礼を言わなくちゃ。
「レオさん、助けに来てくれてありがとうございました」
「マリアが飛紙を使ってくれて、よかったです。怖かったでしょう」
レオさんが私の頭を撫でた。名前を呼び捨てされると、ドキドキする。
「それより、レオさんが活躍するところを見損ねて残念です」
レオさんがフッと笑った。優しい目をしている。ファザコンだからではなく、レオさんが好きだと気づいたせいだろうか、なんだか、まぶしく見える。
音しか聞いてないけど、ごろつきはみんなレオさんがやっつけたんだよね。一人ですごい。
「騎士団の練習をいつか見に来てください」
「はい」
「元のように動けるようになったら、この髪を切ってくださいね」
レオさんが自分の髪をつまんで見せた。
「もちろんです」
「あまり、長い間、しゃべって疲れたら、ダメですね。また、来ます」
私はうなずいた。
レオさん、リハビリ、頑張ります。素敵な髪型にしますからね。
レオさんが帰っていくと、イブさんがのぞき込んだ。
「何だか、いい感じだったわね」
「そうだったら、いいんだけど。いつも、子ども扱いされてるみたいで」
「そう? でも、マリアの好みがあんなワイルドなタイプとは思わなかったわ」
「ワイルドじゃないですよ。すごくきれいな顔です。早く髪を整えて、かっこよくしてあげたいなあ」
「マリアらしい」
「ほら、もう、恋愛の話は終わり。いつでも、できるんだから、マリアは休みなさい」
フランチェスカさんに注意された。
「でも、今からでも、体を動かす練習をした方が」
「馬鹿なこと、言わないの。一ヵ月、ずっと治療を受けてたんだよ。さあ、目をつぶって」
眠れるわけがないと思っていたのに、そのまま、すうっと眠ってしまった。
気がついたら、次の日で、一晩、眠っただけでも、体が少し軽くなっていて、嬉しくなった。
食事はパンがゆのようなものをミルルが食べさせてくれた。口は動いて本当によかった。
トイレはイブさんたちが運んでくれて、なんとか自力でできた。
私が魔法で眠っていた間はどうしてたんだろう。そういうのも、魔法で対処していたのかなあ。
「俺はブランクスだ。よろしくな」
騎士団からは日焼けしたマッチョな男性がやってきた。
「医者に見えないかもしれないが、騎士団所属の場合、一緒に行軍できるのが条件なので、どうしても、こんなふうになってしまうんだ」
でも、ジェシーさんより筋肉隆々だ。
「リハビリは厳しいが俺に任せれば、きちんと元通りになる。ついてくる気はあるか?」
「はい、もちろんです」
イエッサーと敬礼したくなる。今の自分の声に張りが無いのが残念だ。
「じゃあ、始めるぞ」
まだ、一人で立ち上がれないので、寝たまま、左右を見たり、手を動かしたり、足を動かしたり。
一日が終わるとクタクタだった。
「よくついてきた。つらいかもしれないが、魔法で筋肉痛を治すと筋力がつかない。だから、騎士団では命の危険がある非常事態以外は魔法を使うか、医療で治すかは医師が決めるんだ」
「わかりました。ブランクス先生、明日からもビシビシ、ご指導ください」
「よし、遠慮なく行くぞ」
「はい」
元気よく返事しようとしていたせいか、声は二、三日で出るようになった。
一週間で食事を自分で食べることができるようになり、一ヵ月で杖をつきながら、トイレぐらいまでは歩けるようになった。
もちろん、無茶苦茶、先生は厳しかったけどね。殴られたり斬られたりする痛みに比べると、リハビリなんて全然まし。だって、どんどん良くなっていることがわかるんだから。
レオさんは辺境領に戻ったので、会うこともできなかったけど、飛紙を送ってくれた。いつでも、一言で「髪を切ってもらうのを楽しみにしてる」とかだから、すぐに読み終わってしまうけど、つらい時は何よりの励ましだった。
「コルセットつけさせてて、よかったわ」
時々、お見舞いに来てくれるアーネットさんは会うたびに言った
私の命が助かったのはコルセットのおかげらしい。コルセットの骨組みが剣を受け止め、その分、傷が浅かったらしい。それでも、出血は多いし、肋骨は折れているわ、内臓は傷ついているわ、大変だったらしい。
「ジェシーの奴、自分が治せなかったからって、ショボクレてるんだ。情けない。自分の力で何でも治せると過信してたのが間違いなのに」
ブランクス先生が教えてくれた。
「どのくらい治ったか、俺に毎日、聞くぐらいなら、見舞いに来ればいいのに」
そう、いろんな人が見舞いに来たのにジェシーさんは来ていない。忙しいのかと思っていたら、そうじゃなかったらしい。
「大丈夫なところを見せたら、元気が出るでしょうか。会って、お礼を言いたいんです。神殿の治療が間に合ったのはジェシーさんの処置のおかげですから」
「よし、無理矢理にでも連れてくるわ。だから、カツを入れてやってくれ」
「はいっ」
私は元気よく答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます