告白
「こんな感じでどうでしょう?」
イブさんの緑の髪を耳下位置でローポニーテールにした。リボンではなく、白いレースのハンカチを二つ折りにして、帯のように
巻きつける。その上をピンク、紫、赤の宝石がついたネックレスで縛った。
「このハンカチの上のネックレスは間に合えば、新しいアクセサリーにしたらいいと思う」
年越しパーティーでイブさんがかんざし以外のヘアスタイルにしたいというので、試しに結ってみた。
たまにはイメージチェンジもいいもんね。
「リボンは細いものしかないから、こんなふうに幅が広いもので留めるのって、目新しくていいわ。どうやって、思いつくの?」
イブさんに気に入ってもらえたようだ。
「私が思いついたんじゃないんです。私の国では本当に色んな髪の結い方があったんですよ。これを選んだのはイブさんのきれいなうなじが少し見えるようにしたくて」
イブさんは髪が多いので、リボンで結ってもすぐに広がってしまう。編み込むと太くなってしまう。でも、幅広く留めると、その間はスッキリしていい。
「ねえ、お店を開いても、デルバールに来て、私の髪の面倒を見てよ」
「もちろんです。実は週に一回にするか、二回にするか、フランチェスカさんと相談しているところなんです」
「よかった」
バタバタッと足音が聞こえた。
「マリアさん、お客さんです」
ミルルちゃんの声に部屋を出た。
「私にお客さんって、誰? エスメラルダ様からのお使い?」
「ジェシーさんです」
「え? いつも、勝手に入って来てるのに、どうして?」
「さあ? 裏口で待ってます」
イブさんに断ってから、裏口に向かった。
裏口を出たところ、ジェシーさんがしょんぼりと立っていた。オレンジの髪までくすんで見える。
「おはようございます。どうしたんですか?」
「ごめん」
バッと頭を下げて、そのまま固まってしまった。
裏口がある通りはあまり人が通らない道だけど、人目が気になる。
「もう、とりあえず、中に入ってください」
グイグイ、手を引っ張って、デルバールの中に入った。
「謝罪したいんだ」
謝罪されるようなことないんだけど、きっと、人に聞かれたくない話だよね。面会室に案内したけど、男性と二人きりはダメなんだよね。どうしよう。
「私がドアのところで見てましょうか」
ひょこっと、イブさんが顔を出した。
「話が済むまでどうせ待ちだし」
「すみません」
こんなに元気のないジェシーさん初めてだ。
向かいあって座ると、ジェシーさんはまた、頭を下げた。
「昨日、俺のせいでワインをかけられたと聞きました。本当にすみません。ドレスは弁償します」
そういえば、かけられた原因は私がジェシーさんをたぶらかしたからだった。そんなこと出来っこないのに。
「あ、あの、別にジェシーさんにワインをかけられたわけじゃないから、いいですよ」
「いや、でも」
「ただ、恋人を不安にさせちゃ、ダメですよ。きれいな人なのに」
そう言うと、ジェシーさんがぶんぶんと頭を振った。
「恋人じゃない。ただの遊び相手で。いや、だから、俺が悪いんです」
ジェシーさんは慌てて、今度は手をぶんぶん振った。思わず、笑っちゃいそうになって、私は顔を引き締めた。
「そう思うなら、彼女に謝ってください。私は代わりのドレスをもらって、得しちゃいましたし」
ジェシーさんの気を軽くしようと思って、笑いながら言うと、ジェシーさんの雰囲気が変わった。
「誰からもらったんですか」
「レオさんですけど」
「デートしてたんですか?」
「デートだなんて。エスメラルダ様のお使いの方の護衛だったんです」
でも、ドレスを選ぶ時は二人きりだったな。何だか、照れ臭い。
ジェシーさんが大きく息を吐いた。
「ドレスをもらう意味、わかってますか?」
「わかってません。サラサさんからはたくさん、もらいましたけど、何か、まずかったですか?」
フランチェスカさんにも何も言われなかったけど。
「女性からはいいんです」
「あ、アーネットさんからももらいました」
「そういうのじゃなくて。ドレスのプレゼントはそのドレスを脱がしたいって言う意味なんです」
あ、そんな意味が。
「私が意味を知らないことはレオさんもわかってるでしょう。それにレオさんはお父さんのような気持ちでプレゼントしてくれたんだと思います」
ジェシーさんはガリガリと頭をかいた。
「マリアちゃんは無自覚過ぎる」
「え?」
「謝りに来たこんな時に言うのは間違っているのはわかっている。こんな場所ではなく、ロマンチックな場所で言いたかったんだ。でも、言わせてくれ」
ジェシーさんがまっすぐ、私を見た。
真剣な目にドキッとする。
「マリアちゃん、好きだ。こんな気持ちは初めてなんだ。本気なんだ。付き合ってくれないか」
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