第90話 皇帝陛下に謁見しました

謁見の間に入った私は圧倒された。


中は人、人、人だったのだ。


帝国貴族は二千人以上いるって聞くけど、その大半が、この場にいるのではなかろうか、というくらい人がいるんだけど……

後でクリフに聞いたら千人もいなかったみたいだ。伯爵以上の高位貴族はいたみたいだけど100人もいない。子爵と男爵は近場の者だけだという話だった。

まあ、皆普通は冬場に集まって来るのだとか。それ以外で人がこれだけ集まるのは珍しいとのことだった。

半分でこれなら全員揃ったらどうなるのだろう?


私はクリフにエスコートされて、皇帝陛下の前まで歩いた。クリフが隣にいてくれなかったら、絶対にここまで歩けなかったと思う。


そこで皇帝陛下が立ち上がられたのだ。

ざわめきが起こった。


後で聞くところによると、陛下が席から立たれる事はめったに無いことなのだとか。私は知らなかった。


「ようこそ、聖女様、よく、この地にいらして頂けた」

陛下はそう言うと、私を上の段に招いた。

「えっ、上がるの?」

私はとても戸惑ったが、クリフに押されたのだ。

私が、やむを得ず段をを登ると、


「皆の者、聖女アオイ様だ」

私を一同に紹介されたのだ。


一同から拍手が起こった。


「アオイ様は今までの全ての聖女様と同じで、異世界から召喚されたお方だ。しかし、アリストンは何をとち狂ったのか、その召喚した聖女様を追放したのだ」

どよめきが起こった。

そう、私が異世界人でアリストンから聖女ではないと追放された者だと、陛下が初めて皆にしらしめたのだ。


「その聖女様をわが息子、クリフォードが保護させて頂いたのだ」

クリフが頷く。

皆から拍手が起こった。


「そして、アオイ様は、自らを追放したのたアリストンを見限られ、この帝国を頼って頂けたのだ」

「ウォーーーー」

盛大な歓声と拍手が鳴り渡った。


「皆の者も知っているように、この帝国は初代皇帝と初代聖女様が作られた国だ。再び、この帝国に聖女様が戻られたのだ」

「ウオーーーー」

更に大きな歓声と、拍手が鳴り渡った


「聖女アオイ様は、既に、重症で瀕死の状態になった我が息子らを治していただいたのを知っている者も多かろう。更にはサフォーク村では、流行っていた死の疫病、黒死病をも完全に治していただいたのだ。その活躍されるさまは、古の聖女様となんら変わらぬ。皆の者には聖女アオイ様に感謝をしてもらいたい」

一斉に歓声と拍手が私に対して巻き起こったのだ。私は目の前のことに必死に取り組んだだけで、そこまで感謝して頂けることではないんだけど……


「しかしだ。先日のことだ。

聖女アオイ様の活躍に嫉妬したのか、聖女様を追い出したアリストンの者共が、この帝国において聖女アオイ様を誘拐しようとしたのだ」

「おお」

一同から驚いた声が上がる。


「幸いなことに事なきを得たが、これは我が帝国に対する挑戦である」

皇帝陛下が、ここで、一同を見渡された。


「外務卿前に」

「はっ」

頭のはげた人のよさそうな貴族が前に出てきて跪く。


「直ちに、問責の使者をアリストンに送れ。返答次第によっては、第一騎士団を投入する」

「おお」

驚きの声が上がった。


「更にだ。誘拐の実行犯達を尋問したところ、アリストンの前聖女様とその前の聖女様が、アリストンの上層部の言うことを聞かぬと、大司教の命で暗殺されたと吐いたのだ」

「な、何と、それは真でございますか?」

外務卿が驚いて尋ねた。

「そう話していたそうだ。確証は無いがそう話していた者たちは、我が国に潜り込んでいたアリストンの間者によって尽く殺された」

「な、何と、奴らはこの帝国内で、そのような狼藉を働いたのでございますか?」

「そうだ、これは女神様への冒涜と、この帝国に対する挑戦である」

そう言うと皇帝陛下は一同を見渡された。

「今回の件にキンロスが絡んでいるという噂もある。まあ、確証はないがな」

苦笑いをすると皇帝陛下は外務卿を見た。



「外務卿。直ちに、今あげた全ての件について、問責の使者をアリストンに送り、その回答を得よ」

「御意」

そう言って頭を下げると外務卿はその言葉を実行するために去っていった。


「そして、聖女様がこの帝国に戻られたのを機に私は父のやり残したことに着手した。今から言う事は亡き父の遺言だと心得よ」

皇帝はそう言うと一同を再び見渡した。


「デリック・バレーとカルヴィン・ヴァーノン前に」

皇帝はいきなり、エイブとポーラの祖父を前に呼んだのだ。


「「はっ」」

大柄な二人が、前に来て跪いた。

皆驚いて見ていた。


「亡き父の遺言に従って、二人には伯爵位を与えたことを皆のものに報告する」

「な、なんと」

「この二族にですか」

謁見室内が騒がしくなった。


「静粛に!」

陛下の前の宰相が注意された。


「父はこの二人に伯爵位を与えならなかったことを死ぬまで気にしていた。まあ、いろいろな反対意見もあろう。しかし、私は決めたのだ。この二人に私の両翼を守ってもらうと」

そう言うと再度陛下は一同を見渡された。

皆は皇帝陛下の決意の固さを知った。


「まあ、人材は多くいるぶんには困ることもなかろう。二人共、このいろいろと困難な時期だが、よろしく頼むぞ」

「御意」

二人はそう言うと頭を下げた。


なんか陛下の横にいるので、私も頭を下げられた気になってしまったんだけど。


「私から言いたいことは以上だ」

そう言うと陛下は散会を宣言されたのだ。


私はこれで事態が大きく動くと思ったのだが、その動きは全く私の予想もしない形になったのだった。

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ここまで読んで頂いてありがとうございました。

この前のお話『転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて恋してしまいました。』https://kakuyomu.jp/works/16817330667785316908


もとても面白いと思うので、読んで頂いたら嬉しいです!

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