第8話 辺境伯令嬢が生意気なことを言ったので、地下牢に連行されそうになりました

私はクリフが来てくれた後も恐怖と興奮冷めやらないで、半ヒステリー状態だった。


後から冷静に考えると本当に恥ずかしかったけれど、その時は本当に怖かったのだ。


「牢屋の床は冷たかった」

私がポツリと呟くと


「辺境伯、こんな子供を地下牢に入れたのか」

クリフの言葉がますます冷たくなっていくんだけど。

「本当に申し訳ありませんでした」

辺境伯は本当にすまなさそうにしているんだけど、私は無実の罪で拷問されそうになったのだ。そう簡単に許せるわけは無かった。それに私は子供ではないとクリフにも文句を言いたかった。



今も応接に場所を移して辺境伯から謝られているのだが、私はクリフの膝の上に完全に抱きしめられていた。

さすがに私も少しは冷静になってきて、恥ずかしくなったので降りようとしたが、クリフは降ろしてくれなかったのだ。

一国の皇子様に抱っこされて、辺境伯とその領地の騎士団長、それと、皇子の後ろに立つクリフの近衛騎士達の前にいるというのは、どんな罰ゲームだと思わないでも無かった。最初にクリフに抱きついたのが間違いだったかもしれない。でも、本当に怖かったんだもの……



そこにノックの音がして

「カロラインです」

奇麗な服装をした令嬢が入って来た。


「どうした?」

辺境伯が令嬢に聞く。

私がクリフの上にいるのを見て、カロラインはギョッとした顔をしたが、


「お父様。お母さまがお食事の用意が出来たと知らせるようにと言われました」

「そうか、殿下、こちらは娘のカロラインです」


辺境伯が紹介してくれた。

でも、クリフはちらっと見ただけだ。


「カロラインです」

カロラインは傷ついた表情をして私の方をちらっと見た。何か顔が憎々しげにゆがんだんだけど。

まあ、普通は自国の皇子殿下の膝の上に女がいればそうなるかもしれない。カロラインも年頃だし、クリフに気があるのかもしれないし。


「アオイ・チハヤと申します」

クリフが挨拶を返さないので、私が一応、立ち上がって頭を下げた。


カロラインはそんな私をほとんど無視した。


クリフがギロリとカロラインを見た。


まあ、おそらく私は平民扱いだ。異世界人だから実際はどういう扱いになるかはわからないが、クリフはそれを明かすつもりはないみたいだし。この国の頂点に近い辺境伯の令嬢様からしたら私なんて道端の雑草に過ぎない。いや、石ころかもしれない。私はそう思うことにした。



「我が家の料理人が腕によりをかけて作ったものです。是非とも殿下もアオイ様と一緒に食べて頂けないでしょうか?」

辺境伯が誘ってくれた。


でも、カロラインは私がいるのは嫌がるだろう。辺境伯が私の名前を出した時にちらっと嫌そうな顔をしてくれた。まあ、私も、知らないお貴族様と一緒に食べるのは嫌だしおあいこだけれど。クリフが辺境伯らと食べてくれて、その間に私は一人で食べよう。まさかそこで襲われることはないだろうと思う……すこしまだ、騎士は怖いけれど。


「あの、クリフ様」

私は皆の前なのでクリフに様付けをした。


「慣れない呼び方をする必要はない」

その私の出鼻をいきなり、クリフが挫いてくれた。


「でも、クリフはこの帝国の皇子様って聞いたから」

「ふん、高々第一皇子だ。俺の意向を辺境伯に無視されるほどのな」

クリフはまだ嫌味を言っていた。


「いや、殿下、本当に申し訳ありませんでした」

辺境伯はまた、頭を下げてくれた。


「で、アオイはどうしたい?」

「あまり、食欲がないので、私は遠慮させて頂きます」

私は角が立たないようにわざとそう言ってあげたのだ。


なのにだ!


「そうだな。俺も目を覚ましたところだ。申し訳ないが、食事は遠慮させてもらおう」

クリフは自分も断ってくれたのだ。いや、そこはお世話になる手前、辺境伯もメンツがあるだろう。クリフは出るべきだ。

私は必死に目で合図をしてのだ。


しかし、全く無視して、クリフは私を抱いたまま立ち上がってくれたのだ。

ちょっと、私完全にお姫様抱っこされている。

私は完全に真っ赤になった。


「そんな、殿下、料理人達が折角腕によりをかけて作った料理です。せめて殿下だけでも、」

カロラインがクリフにすがり付こうとしたが、

「カロライン!」

「カロライン、俺もアオイも疲れている」

辺境伯の声と、クリフの氷のような声が重なった。


「しかし、殿下。今夜は我が辺境伯爵家が殿下方の面倒を見させていただくのです。せめて殿下だけでも、私達と共に食事を取って頂かないと困ります」

カロラインが更に言い募ったのだ。


「ほう、俺が貴様らと一緒に食事を取らないと泊める訳にはいかないというのだな」

淡々とクリフが言ってくれた。


「えっ、いや、そのような」

「殿下。娘は決してそのような意味で申したのではなく」

カロラインは青くなり、辺境伯が慌ててとりなそうとした。


「判った。今すぐ、この屋敷を出ていく」

クリフはそういうと扉の外に出ようとした。


「ちょっと、殿下お待ち下さい。それだけは、それだけはおやめ下さい」

クリフが出ていこうとしたのを辺境伯は真っ青になって、慌てて、クリフの前に先回りして這いつくばらん勢いで頼んできたのだ。

「このような夜に殿下を追い出したとあっては我が家の名誉に関わります。もし、どうしても出ていかれるというのならば、先祖に詫て命を絶たねばなりますまい。何卒、何卒、殿下のお慈悲を持ちまして、留まっていただきますよう、平に、平にお願い申し上げます」

その横で騎士団長も慌てて一緒に頭を下げていた。


クリフはムッとしてみていたが、


「失礼なことを申した娘は地下牢に一晩入れて反省させます」

「そ、そんな」

辺境伯の言葉にカロラインは真っ青になっていた。

「直ちに娘を地下牢に入れろ」

「お父様!」

「お嬢様、お館様の命令です」

「ちょっとお父様、助けて!」

カロラインは抵抗しようとするも騎士たちに外に連れ出されたのだ。


私はそれを唖然としてみているしかなかった。


「娘の教育もなっておりませんで申し訳ありません。殿下、何卒、何卒、お願いします」

更に辺境伯が頭を下げて縋ってきたのだ。


クリフは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、

「辺境伯。此度のことは貸しだ。これからは特に女子供には留意せよ」

頭を振ってクリフがやっと言ってくれた。


「クリフ、それからカロライン様のことも。令嬢が地下牢なんて入れられるべきではないわ」

私がクリフを促した。


「でも、アオイが入れられたんだろう。それも拷問までされそうになって」

「も、申し訳ありません」

また、皆して頭を下げてくれるんだけど。でも、いくらいま頭を下げられても恐怖を体験したことは戻らないんだけど。

まあ、確かにカロラインは私を無視したし、平民女と見下していたとは思うが、それだけで、地下牢に入れてあげるのは可哀想だ。


「私が体験したからこそ、女の子を同じ目には遭わせさせたくないわ」

私はクリフを見て言った。


結局私の言葉が入れられて、カロラインは牢には入らなくて良くなったが、それでカロラインの私に対しての態度が変わることは無かったんだけど。

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ここまで読んでいただいてありがとうございます。

続きは明朝です。


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