第3話 始動 3: 友幸ー開発(1955.)
和幸兄が
「家電製品の会社を興したい。開発をやってくれないか。」
と打診してきたときは本当に驚いた。市役所勤めだし、てっきり保守的な考え方の持ち主だと思っていたからだ。今までの交流では、和幸兄にとって、おいらは大勢の弟妹の一人にすぎず、眼中になかった筈だ。むしろ、胡散臭い弟と見られていただろう。
おいらは、数奇友幸。ガラクタでいろいろ実験と制作を重ねている、数奇家では異色の与太者である。丁度子供の頃、戦争が起こっていて教育がろくに受けられなかった為、自力で科学を身に着けた。数奇家の大きな蔵が、おいらの格好の居住空間兼実験場だった。教科書で決められた内容を学ばなかったから、科学における野生猿だ。
いぶかしながらも、話を詳しく聞くために、和幸兄の家に行く。
「和幸兄、おいらで役にたつんかい。」
「いや、お前が適任だと考えている。」
いつもは、お茶を出したら、一礼して部屋を出る寿さんが、和幸兄の横に座る。
「今の時代より大きく一、二歩進んだ、粋で、低環境負荷の製品を作るには、固定観念にとらわれない人の力が必要なんです。」
寿さんのしゃべるとこ、初めて見るな。こんな人なんだ。
「今、冷蔵庫や、洗濯機、テレビなど、販売され始めたが、一般の庶民には、高額で、全く手が出ない。しかし、時期が来れば、普通に、家に存在するものになると、自分は思う。」
「うん。」
おいらはとりあえず、相槌を打つ。
「現在、皆が持ってないから、皆が持つということは、その分販売されるという事だ。売れる製品であるなら、自分は、その波に乗っかりたい。即ち、家電業界に身を置きたいわけだ。だが、製品は一部出ていて、既に後発となる。故に、差別化を図らないといけない。」
「あと、後発の利点というのもあるんです。先発の製品は、既に先行投資で、既に生産するための設備を作ってしまっていますけど、後発なら今から方式を決める。よりよい方法で生産設備を適切に作れるのがいいと思います。」
待て待て、いきなり、一気に理詰めで、きたぞ。この夫婦。
「なんか、言ってること、めっちゃ難しくて、わからないんだけど。」
球を少し外して飛ばすような、返事をした。すると、和幸兄が
「なあ、電化製品には魅力を感じるだろう。」
と、説得に来た。
そうかぁ。おいら、あんまり欲しいとは思わないんだけど。おいら、大抵、何でも、自前で間に合ってるからな。
「うん。。。」
ここは、否定したら、和幸兄が気の毒なので、話を合わせはするものの、声のトーンは落としておく。すると、おいらの考えを察した和幸兄が、言い方を変えた。
「じゃあ、今何が販売されているかではなく、どのような電化製品に囲まれ、どのような生活がしたいか、紙に書きながら、話をしよう。」
ざら紙の束が机の上に置かれ、鉛筆が三本出てくる。和幸兄、意外に熱い男だったんだなあ。
未来の生活とそれに関係する製品を紙に書いて語るのは、とても面白かった。電子レンジねえ。ああ、おいらならできそうだ。そして、それ、出来たら、おいらにすごく役立ちそう。
現在出ている製品群は、まだまだ初期製品で、その技術が陳腐化し、一掃される可能性もあるなんて、他に考えてるやつ、今いない。そんな余裕ない。
あと、今、資源枯渇するとか、生産途中での汚染物質をなるべく最小にして適切に処理するなんて、誰も考えてないって。10年前までこの辺、戦争で人間が生活環境自体ばっきばきにしてるくらいだ。
だから、案外、和幸兄、いい勝負するかもな。
「回りまわって、公害防止は儲かる。」
初めに毒物を出して、途中からその対応を入れたり方式を変えたりするのは手間も時間もかかるが、最初から、そういう状態にならないような方式でやるのは無駄がないね。気に入った。「リープフロッグ現象」とやら、引き起こしてやるよ。
「わかった。和幸兄。やらせてもらうぜ、開発をよ。」
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