クラスまるごと異世界転移 改訂版

八神ユーリ

1

…ココは異世界のとある町。



「はい、依頼達成になります」



報酬の方はあちらの方で…と、受付嬢が手で示す先の窓口へと向かう。



「こちらが報酬になります。ご確認ください」


「はいはい、オッケーです」



男の人がトレイに乗せた金額を確認した俺はそのまま財布の中に突っ込んで建物を出る。



「けっ…なんだってんだ…ん?」


「…お?」



今日の晩飯は何にしようかなー…と思いながら歩いていると…



酒場の中から制服を着けた男子生徒が愚痴のような言葉を吐き捨てるように言いながら出てきて俺と目が合った。



「お前は……えーと、名前なんだっけ?」


「海原だ。お前は……」


「海原か、俺は柴田。まさかお前もこの町に居たなんてな」



一ヶ月振りぐらいか?と、柴田は俺の横を歩きながら話しかけてくる。



「酒場から出てきたって事は…冒険者にでもなったのか?」


「まあな。せっかく異世界に来たんだから冒険しないと男が廃る、ってもんだ」


「そんなもんかね」


「お前は?なにしてんだ?」


「俺か?俺は…」



…元の世界では大して話もせずに全く仲良くなかった奴でも、こんな世界に来てからは一緒に喋れるだけで嬉しくなる不思議。



「…へぇ、なるほどな。ギルドの雑用係か」


「正確には違うけどな…まあ、俺以外に受ける奴がほぼ居ないから間違ってはないんだけど」


「FとかEランクの依頼なんてそりゃ誰も受けねーだろ。俺の入ってたパーティもDからだったし」



ペット探しだの買い物だの留守番だ草むしり?…そんなんやる気でねーよ。と、柴田は頭の後ろに手を組みながら怠そうに言う。



「まあだから俺のサイフが潤うわけで。ありがたい話だ」


「そんなに金があるんだったら晩飯奢れよ」


「やだね。お前もパーティ組んでたんなら金持ってんだろ」


「…パーティは抜けた」



たかってくる柴田に俺が拒否すると意外な事を言い出した。



「抜けた?なんで?」


「なんだっていいだろうが。それよか晩飯は諦めるから今日お前ん家に泊めてくれね?」


「…まあ別に問題ねぇけど、新しいパーティ探さなくていいのか?」


「そりゃあ…追々考えるよ」



柴田は組んでた手を離すとポケットに突っ込んで下を向きながら呟いた。



それから少し間が空いたものの柴田から話題を振ってきて適当に雑談しながら帰宅する。



ーーー



「へー、ココか…お邪魔しまーす、っと。お、元空き家にしてはだいぶ綺麗じゃねーの」



町の中心街から少し離れた一軒家の中に入ると柴田は床や壁を見ながら意外そうに言う。



「そりゃ掃除ぐらいするだろ」


「マジで!?お前家事とか出来んの!?」


「できん」


「出来ねぇのかよ!」



柴田が驚きながらの聞いてくるので隠すこともなく素直に答えるとツッコむように返された。



「じゃあ誰が掃除してんだ?やっぱり家政婦とか雇ってんのか?」


「いや、普通に俺の兵が。ほら」



柴田の疑問に俺はリビングのドアを開けて今も掃除中の兵士の姿を見せながら答える。



「兵って…家政婦じゃなくて?…お前、大丈夫か?」



柴田はせっせと掃除をしている兵士の姿を見るとヒいたように俺の状態を確認をした。



「は?」


「いや、普通わざわざ家事させるために傭兵とか兵士は雇わなくね?」


「…ああ、そういう事か」



俺は柴田のその発言で勘違いされている事に気がついた。



「コレはアレだ。俺のスキルで出した奴だ」


「スキル?あの神から貰った『固有スキル』の事か?」


「ああ」


「へー、便利なスキルもあったもんだな」



俺の言葉に柴田が確認して勘違いが解けたのか意外そうに呟く。



「…ちなみにお前の固有スキルってなんだった?」


「俺のは『人海戦術』つーやつ」


「人海戦術ぅ?なんだそれ」


「大量の雑魚を召喚する事ができるってだけよ」


「なんだそれ!チートじゃねぇか!おまっ!めちゃくちゃ当たりじゃねぇか!うわっ、めっちゃ羨ま…」



柴田の問いに答えると驚かれた後に羨ましがられた。



そして嫉妬をしたかのように睨んでくる。



「そんな良いもんでもないぞ。俺も最初はテンション上がったが…全くと言って良いほど戦闘向きじゃなかったし」


「はあ?戦いは数だろ。舐めたこと言ってんじゃねーぞ、このラッキーマンが」



俺が実際に使ってみた感想を言うも柴田は信じないかのように悪態を吐く。



「ソレが通じるのは戦略系のSLGとかSRPGだろ。アクションでもギリギリなのに…無双シリーズだと無意味だろーが」


「…確かに」


「どんだけ数を揃えようがただの雑魚じゃ範囲攻撃で一発よ。調子に乗った結果マジで死ぬかと思ったし」


「マジか。ごめん」



俺の話を聞いてまたしても柴田は勘違いしてた事に気がついたのか素直に謝る。



「お前のスキルを教えたら許してやる」


「俺の?俺のは『縛り』っつーくっそ使えねぇスキルよ」


「縛り?」


「ああ。自分のステータスの一つを使えなくして相手も同じ状態にするんだと」


「…まあ、その…なんだ。サポート向けじゃないか」



柴田の固有スキルを聞いて、俺のスキルのが大分マシだな。と内心安堵しつつちょっとフォローした。



「だと思うだろ?相手にデバフだけならまだしも自分もだぜ?『メンバーの枠を一つ埋めてまでも必要とする能力じゃない』だとよ」


「まあ、相手の防御力をゼロにしても自分の防御力もゼロだからな…守る手間を考えたら当然だな」


「ちっきしょう…なんで俺だけこんな使えねー外れスキルなんだよ!お前のと交換できねえ?」


「いや、無理だろ。出来たら『固有』の意味ねぇし」


「…だよな…」



柴田の提案に俺は内心とても嫌がりつつもなんとか却下する事に成功した。

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