第197話 遠足は帰るまでが遠足です

 迷宮ダンジョンの入り口を埋め立てたショーカン一行。作戦は成功した。


「遠足はお家に帰るまでが遠足ですぅ。ハイ、イイですか?」


 帰路に着くとなると、これまでの疲労も吹っ飛びそんな軽口も叩きたくなる。


「なんだそりゃあ?」


 護衛について来たBランクの冒険者の剣士っぽいやつが、まぜっ返して来た。


「俺の故郷の慣用句でね『無事に帰り着くまで油断するな』って意味だ」


「なんでぇ、当たり前じゃねぇか」


「いや、そうでもないぞ。見知らぬ土地では浮かれて怪我をする事もある」


 高ランカーの冒険者ほど負けず嫌いだから、俺らにもこんなことわざがある、と話の穂を繋ぐ。


「なぁ新人ルーキー、先達として教えてやる――『金が欲しけりゃ生きて帰れ』ってやつだ」


 ほうほう……冒険者らしいっちゃらしい。


 レオはと見ると

「そんな事わざわざ言わなくてもさ」と肩をすくめている。


 ブレードリヒの甲高い声が聞こえてくる。

 

「我らが崇める『太陽神の女神アウーラ』の教義書の第36項の2節に『性急に語るなかれ』とある。

 全ての事を終えて諸君の功績を語るのはこのブレードリヒの役目。

 帰っても迂闊うかつに『性急に語る事なかれ』と言うことだ」


 つまり、自分のやらかしは黙っておけと?

 さすがにこれは、隊長のベルトランもカチンと来たらしく

「論功は総合判断されます。私が口添えしますから、どうか隊規を乱さないように」

 と当て付けて嫌味を言っていた。


 やけに疲弊したミランダが

「さて、魔道士の皆さん。そろそろ……」

 

 と切り出した。

 もう歩くのもしんどそうなのは、魔道士たち総出で迷宮ダンジョンを埋め立てた土砂を硬化させていたからで、あの量なら当然だろう。


 魔道士の一人がそれを引き継いで、こちらも辛そうに告げる。

「我らの魔力がそろそろ底をつく。ゆえにこれより『隠遁ステルス」を解除する」

 こちらも疲弊して体に力が入らないって感じだ。


「ゆえにこれからは領兵と冒険者皆さんの出番です」


「おうよ。この為に来たようなもんだからな」


 剣士が肩当てをガチャリと鳴らして両手剣を引き抜いた。


「盾兵を前へ。剣士はその後ろから頃合いで攻めてもらいます。領兵は魔道士の護衛を。以上、隊列を組んで」


 隊長のベルトランが素早く指示を出し、隊列を組み直していく。


「これより魔法を解除する……」


 疲れ切った魔道士が魔法杖ワンドをクルリと回すと、音が一斉に襲いかかって来た。そして魔物の殺気も。

 

 なかなかハードな帰宅になりそうだ。

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