灯火

第1話

諸行無常。

盛者必衰。

その言葉を、人の歴史は幾度も繰り返す。

時を変え、場所を変え、人を変えて、何度でも。

小さな規模のもの、大きな規模のもの。

様々に。

それは、訓戒に他ならないが、誰もそれを自分のこととは思わない。

否、思わなくなった時が、それが、現実となるのだ。


 そうして、いくつもの家が滅び、血統が途絶える。強い者、運を味方にした者が命を繋ぎ、血統を伝え、弱い者が淘汰されていく。逆に、生まれた家は小さくとも、力を持ち、運を味方につけたものは、己より上のものを淘汰し、のし上がることが出来る。

 そんな、時代だった。


厳しい時代だ。

いくつもの命が無残に失われる。

力のあるものですら。

力のないものであれば、尚更。


「私たちは、何の役に立てましょうや」

一介の僧侶、寂啓の心に、その言葉は抜けない棘のように在る。


 雪が、降っていた。

 冬と言うにはまだ早い。しかし、秋と言うにはもう遅い。

 そんな時節だ。

 山はまだ秋の名残を残している。冬になるのを出来るだけ先送りにしたいと思うのは、全ての生き物の願いでもあるだろう。冬の前に鎮座している秋は実りの季節だ。一年の中で最も豊かな季節と言えるだろう。その豊かさを出来る限り長く、そして多くを享受したいと願うのは、どの生き物でも同じことだ。

 だが、何故その季節がそこにあるのか。それは、厳しい冬を越えるための力を蓄えるために他ならない。秋の恵みをより多く蓄えたものが、冬を有利に越すことが出来る。

 山の中では多くの動物たちが迫りくる冬に向けて忙しく動き回っていた。あるものは冬を眠りの中で過ごすために。あるものは、冬の間も食べるに困らないように。各々冬に向けての対処は異なる。

 人間は冬に眠りにつくことはできない。人間にできるのはやはり、より多くの食べ物を蓄え、温かく過ごすための手立てを用意することだ。

 それは時に、身体の温みのみに留まらない。

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