三十七話 誰も知らない使い魔
「遅かったな。何かあったのか?」
森の奥の広場に陣取っていたカイトの言葉だった。まるでが挑発するかのよう口ぶりだった。
「カイト! あなた! ヘスティアを!」
ルディアは腫れあがった瞼を隠すこともせずに、怒りを込めて言葉を放つ。がカイトはまるで知らないといったような素振りを見せた。
「ヘスティア? 誰だ? それは?」
「な、何を! あんたが今さっき、そこで殺した女の子よ!」
「だから俺は知らないと言っているだろう? ま、もしかしたら俺以外の誰かは知っているかもしれないがな」
そしてカイトが右手を掲げると、木の陰から十人以上の人影が現れて、アレフたちを取り囲んだ。
「ひ、卑怯よ!」
「聞こえんなぁ」
「良いことを教えてやる。こいつらには全員、最上級である
「う、うそ……全員に!
「流石に時間がかかっちまったよ。これだけの数の
「クッ!」
ルディアはその言葉に拳をギュッと握りしめて悔しそうな様子を示した。と同時にアレフは首を横にゆっくりと振った。
「ああ、
「ははは! いいぞお前ら! はじめろ! さあ、死ね!」
「俺からやらせろよ! 使い魔ってのを召喚してみたかったんだよ」
カイトの言葉に応えるかのように、一人の男が一歩前に出ると同時にアレフたちの前に巨大な魔法陣が展開される。
「う、うそ……大きい……」
そのサイズにルディアが驚嘆の声を上げる。その魔法陣のサイズにそぐわぬ巨大な赤い鱗を身にまとった竜であった。
「レ、レッド……ドラゴン……」
ルディアは見上げその巨大な竜を見上げてぼそりと呟いた。そして力なくその場にへたり込んでしまう。顔色は青ざめてしまっていた。
しかし、横に立つアレフは至って変わる様子はなかった。
「クソッ! なんだその態度は! お前も慌てふためけよ! いいや、気にくわねぇ! やっちまえ!」
男はアレフが全く焦る様子を見せないことに苛立ちの色を見せた。そしてレッドドラゴンにそう命じると、その言葉とともにレッドドラゴンは口を大きく開けて炎の息を吐いた。と同時にアレフが叫ぶ。
「フューネル!」
するとアレフの横に魔法陣が現れると同時に白く凍てつく風が吹き荒ぶ。その凍てつく風はレッドドラゴンの炎の形そのままにレッドドラゴンごと凍り付かせてしまった。
その場に居る者たちが一瞬の出来事に呆然としてしまっていた。アレフ以外、だが。
そしてルディアは白銀に輝く一匹の狼がアレフの横で腹這いになって寛いでいることに気がついた。
「え? フューネルってあんな姿だった? と言うかあのフューネルの種は何? 見たこともない使い魔なんだけど」
ルディアはアレフがフューネルの名を呼んだことより、今アレフの横にいる狼がフューネルであると思った。が、ルディアの知っている姿ではなく、また今まで見たどんな使い魔とも違う。とルディアは思ったのだった。
「良くやったな。しかし、炎ごとはやりすぎだったな。あれじゃベンヌの相手が居なくなってしまうぞ?」
アレフはフューネルへ撫でながらそう話しかけた。とうのフューネルはアレフに撫でられてとても気持ちよさそうにしている。
そしてそのままカイトに視線を送り、こう話しだした。
「カイト。お前の言う通り俺は
その後フューネルへと視線を落とし、こう続けた。
「フューネルもベンヌも
アレフの言葉に腰を抜かしてカイトはしゃがみこんでしまっている。そんな惨めな格好でも偉そうな態度は変わらなかった。
「
「お前は知らないよ。確かに
「な、なにを訳の分からんことを言っている! 召喚石から以外に使い魔など手に入れられる訳がない!」
「へぇ……進化にはそんな秘密もあったのね……」
アレフの言葉にカイトは否定の色を示し、ルディアは逆に肯定の色を示した。
同じレア度でも進化した使い魔の方が数段強い。そして進化し、
そしてアレフは、魔法陣から一本の刃をゆっくりと引き出しながら、一歩、また一歩とカイトに近づいていく。
「そしてこいつが、聖剣デュランダル。現在、過去、未来において、全てを切り裂く刃だよ」
「そ、そんなことはどうでもいい! お、お前ら! 殺れ!」
カイトが大声をあげるが、誰も反応を示さない。カイトは焦って周囲を見渡すと、先程アレフたちを取り囲んでいた者たちは一人残らずいなくなっていた。
「気づかなかったのか? 皆逃げたぞ? レッドドラゴンを凍りつかせたせいで、力の差にビビってしまったらしい」
カイトはアレフから逃れようと、必死に座ったまま後ずさる。が、木にあたり、それ以上下がることが出来ない。藻掻くカイトの前にアレフが仁王立ちになった。すると、そこにルディアが割り込むように飛び入ってきた。
「ヘスティアの恨みを晴らしてやる!」
「ルディア待て! カイトには手を出すな!」
「アレフ! なんで止めるの!」
ルディアは手にナイフを握っている。アレフは今にも飛びかかりそうなルディアを掴んで止めた。
「あはは! 怖気付いたか? お前如きじゃ俺を殺すことも出来ないからな!」
アレフは首をゆっくりと横に振った。
「カイトに手を下すのはルディアじゃない」
「アレフ! 私だって悔しいのよ! こんなやつに! アレフにだって譲る理由はないわ!」
「違う。俺でもない。カイトに手を下すべきは……」
そしてアレフが魔法陣を展開させると、中からは霧のような物が現れた。
「う、うそ……ヘスティア? な、なんで?」
「お、お、お、お、お前は! さっきの女じゃないか! な、何故! ここに居る!」
そこに居たのはヘスティアだった。ヘスティアの姿形にそっくりな。ただ霧状の為すこしぼんやりとしていた。
驚いているルディアに対してアレフはこう語りかけた。
「ルディア。ミストって使い魔、覚えてるか?」
「え、ええ……もちろん」
「ミストの進化に必要な
「え……うそ……」
「そして、その人の召喚士への想い。
ルディアにアレフはそう告げると今度はヘスティアにこう告げた。
「ヘスティア。お前の好きにしていいよ」
そしてヘスティアはすぅっと音もなく、そしてゆっくりとカイトへと近づいていく。
「くるなくるなくるなくるなくるなくるなぁぁぁぁぁぁぁ!」
カイトは叫び、気を失ってしまった。その様子を見たヘスティアは、アレフの元へと舞い戻り、満足そうに頷いた。
「好きにしていいって言っただろ?」
アレフの問いに応えるかのようにヘスティアは首をゆっくりと横に振ってから消え去ってしまう。
「そうか。赦すのか。ヘスティアはやっぱり優しいな」
そして残されたアレフはそう呟いたのだった。
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