三十六話 ヘスティアの死

「あれだ!」


 アレフは小屋を一つ見つけそう叫んだ。そして、小屋に辿り着いたアレフは扉をバンッと開け放つ。


「ヘスティア!」


 アレフは中に入った瞬間、大声をあげた。


「ルディア! 見るな! 見るんじゃない!」


「ヘスティア! あ……あ……」


 アレフの声はルディアを静止すること能わず、中を覗かせてしまう。そしてルディアは目に飛び込んできた光景に言葉を失ってしまい、力無くその場にしゃがみこんでしまった。

 小屋の中にはヘスティアが横たわっていた。血と大量の白い体液にまみれていた。服はボロボロに破かれ、ほぼ裸といっても過言ではないほど肌は剥き出し。腹には大量の痣があり、両の足は逃げられないようにか、膝から下は無く、抵抗させない為か手首から先はぐちゃぐちゃに砕かれていた。


「ア、ア、アレフさ……」


 小屋に入ったアレフに気が付いたヘスティアがその名を呼んだ。明らかに目の焦点があっていなかった。


「み、見ないで……私……汚たない。嫌われちゃうから……」


 光を失っているヘスティアの瞳から一筋の涙が零れた。ヘスティアはもうアレフから顔を背ける力も残っていないようだった。


「言うな! 黙ってろ! 話すんじゃない!」


 アレフは自身が汚れることなど構わず、ヘスティアに駆け寄り抱き上げる。


「ルディア! 誰か呼んできてくれ!」


「あ……あ……ヘスティア……」


 ルディアはショックの余りアレフの声に反応を示すことなどなかった。


「クソ! ルディアめ!」


 アレフはついルディアに悪態をついてしまう。そんなアレフをヘスティアは力なく諌めたのだった。


「アレフさん……ルディアを責めないであげて。誰かなんて呼んでも……ねぇ、ルディア二人で話をさせてくれない? 二人っきりで。最期のお願いだから……」


「ルディア!」


 アレフは再度大きな声をあげる。その声にやっとルディアは反応を示した。


「あ……あ……わかったわ……」


 そしてルディアはパタリと扉を閉めた。


────────────────────


「アレフ! ヘスティアは!」



 小屋から出てパタリ……と扉を閉めたアレフにルディアはしがみつきながら尋ねた。

 と、その問いに応えるようにアレフは首を横にゆっくりと振った。


「あ……あ……う、うそ……嘘よね……?」


 ルディアが声を絞り出すが、アレフは首を横に振り続けることしかできない。


「うあああああああーあーあーあーあーあーあーあああーーあああーーーーーーーーーー」


 バサバサバサッ!


 ルディアの叫ぶ声に応えるかのように小鳥たちが飛び立つ。


「俺の、俺のせいだ!」


 アレフは自戒の言葉を絞り出し、自身の胸に顔を埋めるルディアに言葉を絞り出した。そのアレフぼ言葉にルディアは勢いよく首を横に振り続けるしか出来ることは無かった。


「クソクソクソクソッ……俺が、俺がヘスティアを殺したんだ……」


「違う! 違うよ! アレフは悪くない! アレフのせいなんかじゃない! アレフは悪くない! 悪くなんてないから!」


 アレフは声を押し殺し、ルディアは逆に憚らずに大きな声でアレフを慰めた。それはまるで自身に投げかけるかのように。


 二人は長い間、その時を過ごした。いや、本当はさほど時間は経ってないのかもしれない。

 少し落ち着いたルディアを、アレフはそっと胸元から離した。そして小屋の先に視線を送りルディアにこう呟いた。


「行こう。この先にカイトがいる」


 その言葉にハッとしたルディアは涙を拭いアレフの視線の先をキッと睨んだのであった。

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