十七話 推測
ガキィィン!
振り下ろされたデッドタイガーの爪をアレフはデュランの腹で受け止める。
「グッ! それ!」
押し返しながら刃を返すが、スピード自慢のデッドタイガーには届かない。デッドタイガーはまるで舞うかようにアレフの刃をひらりと躱す。
「フューネル!」
その着地を見計らい、スピードに勝るフューネルは牙を剥き出し襲いかかった。
身を捻り、強引に着地しながら躱そうとするデッドタイガー。
しかし、その乱れた着地をアレフは見逃さない。
アレフの右手から繰り出された突きは、デッドタイガーの腹を貫く。
グォォォ!
のたうち回るデッドタイガーの喉元をフューネルが噛み切ると、デッドタイガーはその動きを止めたのだった。
「ふぅ、少し休憩しようか。フューネル、好きに食べていいぞ」
そう言って近くの木の根元にアレフは腰掛けた。レイモンドとのバトルからは一週間以上経過している。ここは四階層、最近のアレフはこの階層での狩りが主流になっていた。
「デッドタイガーあたりは流石に少し手強いな……」
三階層では二階層ではそれ程遭遇しなかったフォレストグリズリーの姿も頻繁に見掛けるようになった。
逆にフォレストグリズリーよりも強いデッドタイガーの姿を見掛けることは稀だった。
デッドタイガーは二階層で遭遇することは無かったので三階層からの出現なのだろう。
そして、三階層ではデッドタイガーの数も明らかに多くなっている。
気の所為かもしれないが、デュランの布の血、これは強い魔物を殺した時の方が広がっているような気がした。また、アレフ自身の経験としても、より強い魔物と戦う方が良い。
持ち帰ることが出来る荷物の量の関係で、一度や二度は帰らないと稼げない。敵の強さや荷物を持ち帰ることを考えて、四階層で狩りをするのが効率性が高い、と言う考えに至ったのでこの階層での狩りが、最近のアレフの日課となっていた。
ちなみに先程倒したデッドタイガーは既に荷物がいっぱいなので、全部フューネルにあげたのである。
「収納用ネックレスの入手……Dに上がる……上手くいって同時くらいになるか…」
収納用ネックレスは最低百万ガルド程する。より多く収納出来る物はより高価だ。
Eのバトルで勝てば一回で一万ガルド程手に入る。また、今の遺跡ダンジョンでの稼ぎも、一日一万ガルドから一万五千ガルド程だ。
そして次のランク戦でEになったとしても、Dになる為にはランク戦で二回連続で勝たなければならない。
つまり、次のランク戦でEになり、そこから二回後のランク戦までDになる事は出来ないのである。
「早く六階層より先に行きたいんだがなぁ……」
そう、アレフは先に行きたい理由がある。いや、増えたのだった。
それはフューネルの進化についてである。実は先日、フューネルの進化についても聞きに訪ねたのである。
その質問についての答えは、まだ答えられないとのことだった。そして、まだどちらにせよ早いと……
そこからアレフは一つの仮説を立てた。遺跡ダンジョンの地下……より深くに何か秘密があるのではないかと。
例えばフューネルには五階層までで手に入らない物を与えなければならないとか、他の使い魔にもそうなのかもしれない。また、その者がどこから
あの部屋にあった転移用の魔法陣は一つでは無かった。別の魔法陣に入れば違う場所に転移出来るのだろう。別の魔法陣に入った先で、戻ってくることが出来なくなる可能性もあるので、確かめることは出来ないが、それもこれも封印された部屋の先……六階層より先を調べなければならない。
その為にはDになる必要がある。
六階層への転移の魔法陣がある部屋に立ち入る扉には封印がかかっている。何人もの召喚士が命を落としたらしく、挑むには最低限Dになれるくらいの強さが必要、という事だった。
しかし、大体の召喚士がその頃には命の危険を犯すよりもバトルで収入を得た方が良いため、挑む者などいないのだが……
「さてと、そろそろ切り上げて帰るかな」
しばらく物思いにふけっていたアレフは、フューネルに視線を移すと、デッドタイガーを満足いくまで平らげたフューネルは、その死体の横でゴロンと寝転がり、うたた寝をしていた。
「まあ……まだ約束の時間には早い……しばらく寝かしておくか……」
そう呟いて寝転がるフューネルの背中を撫でながらアレフは空を見上げた。木々の切れ間から所々青空が見える。明るさから言って約束の時間にはまだまだ早いようだった。
今日、戻ってから夕食は三人で食べることになっている。ルディアとヘスティアとの三人で、ヘスティアに会うのはあの日以来だ。ヘスティアが休みだからとルディアを介して誘われたのである。
すると急にフューネルがビクッと動き、ゆっくりと起き上がった。
「お、獲物か?」
クンクンと匂いを嗅ぐフューネルにアレフは静かに問いかけた。
それに応えるように、身構えるフューネル。
「まだ時間はある。いいぞ……いけ、フューネル!」
その言葉を合図に駆けるフューネルの後をアレフは追いかけたのだった。
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