九話 二体目の使い魔

「ごめん! お待たせ!」


 アレフは家の前で目深にフードを被り待っていると、ルディアが少し小走りでアレフの元に走って来ながらそう声をかける。アレフは軽く手を挙げて、それに応えた。


「こっちがお願いしてたことだから気にするな」


 そう言ってルディアの差し出す袋を左手で受け取りながら答えるアレフ。その左手に光る二つの指輪がルディアの目に入ったのであった。


「あれ……それって?」


 昨日は無かったはずの指輪が気になったルディアは、真っ先にアレフに指輪に視線を送りながらそう尋ねると、アレフは笑顔でこう答えた。


「昔、母さんも召喚士だったらしい。その時使ってた指輪だってさ。昨日貰ったんだ」


 そのアレフの言葉はルディアも笑顔にさせた。


「へぇ……じゃあ、あたしからは召喚石のプレゼントするわね!」


「ああ、そっちはありがたく受け取っておくよ」


 そうして二人は闘技場まで向かって行くのであった。


 目指すは闘技場の中にある召喚の間だ。模擬戦を行った訓練場近くにある。中心に魔法陣が一つあるさほど広くない部屋の中に神官が一人、座っている。その神官が部屋に入ってきたアレフに侮蔑の色をまるで隠していない声色で尋ねた


「何しに来た?」


「何しに来たって使い魔を決めに決まってるだろ?」


 召喚の間である。さも当然だと言わんばかりにアレフが答えると、面白くないようで神官は吐き捨てるように言った。


「フンッ! 勝手にすればいい」


「もちろん勝手にさせて貰うよ」


 アレフは魔法陣の中心に立ち、ルディアから貰った召喚石をミューズから貰った指輪にはめる。すると魔法陣が光り輝き、それと同時に新たな使い魔が召喚されたのだった。


 その新たな使い魔はアレフの背丈ほどはある大剣の型をしていた。刀身には魂を喰らう布だと言われているモノが巻き付かれ、柄には鎖が巻き付いている。歯車のような文様が特徴的な大剣だった。

 ディルオブスタンと言う名のレア度はHRハイノーマルノーマルよりも高いHRハイノーマルではあるが、ハズレ・・・使い魔と名高い。誰もが口を揃えてノーマル以下だ、と蔑む使い魔である。


「ふははっ! 無能にお似合いの役たたずではないか! ピッタリな使い魔で良かったな!!


 神官は召喚された使い魔を見て、アレフに嘲笑を浴びせる。ディルオブスタンは自身で動ける訳ではないので、使うとしたら他の使い魔に振るわせる必要がある。三体までと決まっている使い魔の枠の一つを、わざわざ使い魔用の武器になど使う者などいない。召喚士自身は魔法で戦うので大剣など必要無い。

 事実、バレンシアで武器として使える物などナイフくらいだ。第一、人間にはディルオブスタンは重すぎる。振り回すどころか、地面から持ち上げることすら能わない。


「そうね……アレフにピッタリ・・・・だわ」


 ルディアの言葉がアレフの背後から聞こえた。アレフは振り向くと、ルディアはまるで勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

 アレフも笑顔で頷く。そして足元に転がるディルオブスタンを右手でひょいと拾い上げ、軽く横に一度だけ凪いだ。

 その風圧は神官まで届き、先程までの侮蔑の表情を一瞬にして驚愕へと変えさせたのだった。


「お、おまおま……に、にん、にんげん、か……ば、ばけもの……」


 ガクガクと震え驚きの余り言葉にもならない言葉をその神官は絞り出した。そして神官に向けてアレフは軽く笑みを浮かべながらこう答えた。


「いや……俺はただの白髪の人間だよ? お前らが下に見る、侮蔑するだけのただの人間さ……」


 そして今度は大剣を目の前に掲げて呟くのだった。


「確かにお前は俺にピッタリ・・・・だ。そうだな……お前の名前はデュランにしようかな……じゃあ、邪魔したな!」


 そう神官に言い放ったアレフはルディアと共に召喚の間を後にしたのだった。

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