六話 対ルディア

 闘技場の南門を潜ると一本の通路が真っ直ぐと奥まで続いている。一番奥が闘技場であり、外に出ることが出来る。北側にも同様の門があり、そちらも一番奥が闘技場に繋がっている。

 その通路には三箇所の十字路がある。闘技場を中心にほぼ同心円状に広がる、周回路が三本あるのである。外側二つは観客席に繋がる階段があり、一番内側には召喚士が使う施設が集約されている。

 控え室や召喚の間、協会の部屋などもこのエリアにある。協会の本部自体は王の館の近くにあるのだが、あまり行くことは無く、大抵はこちらで事は済む。


 今回の目的地はこのエリアにある訓練場である。闘技場より少しだけ狭い広さの部屋、その全体に魔法陣がはりめぐらされていり。そして、その部屋の両端近くに半径一メートルほどの魔法陣が二つある。召喚士同士はこの魔法陣に入ってバトルを始めるのである。


 この二つの魔法陣には強力な防御力があり、魔法攻撃を全て弾く。つまり、召喚士同士の魔法攻撃はお互いに届かないという事だ。

 そして、それ以上に強力な魔法陣が部屋全体の魔法陣である。闘技場と同じように、この魔法陣は周囲に全ての衝撃を漏らさない。


 闘技場でのバトルはお互い使い魔を三体まで召喚することが出来る。バトルが始まるまでに必要な指輪三つ、それ以上の指輪は装着を許されない。

 勝敗はどちらかが降参すること。もしくは意識を刈り取ることである。

 ちなみに魔法陣の中に居ても物理攻撃は通用するので、大抵の召喚士が三体とも使い魔を倒されると降参する。もしくは魔法陣の外に出た場合も、である。魔法陣の外に出ると、相手の魔法に狙われるようになるので、途端に危険度が跳ね上がる為、外に出てしまうと降参する者が多い。


 だから、殆どの召喚士が壁用の使い魔、直接攻撃用の使い魔、後は自身や他の使い魔に合わせての三体編成となる。


 ただ、これは闘技場でのバトルでの話である。

 訓練場での模擬戦はお互いに話し合えば三つ以上の召喚士の指輪を装着出来る。色々な組み合わせを試したい

、という者もいるからである。模擬戦とは練習試合である。その為のルール、と考えれば至極当然のことであった。

 ただ、同時に召喚出来るのは三体までなのは絶対であった。。倒される、もしくは、別の使い魔を召喚し直すことは可能と認める場合もある、ということである。


 アレフとルディアはお互いの魔法陣に入り、対峙して条件を詰める。


「使い魔の召喚はあたしはバトルと同じで三体まででいいわ。と言うか、一体しか召喚しないけど……」


 ルディアとは何度も模擬戦をしている。お互いの手の内は知っている。だからこその発言だった。

 一体だけで勝てる。と言うよりも一体だけでアレフにルディアは負けたことは無い・・・・・・・・


「ああ、俺もそれでいいよ。こっちはフューネルしかいない。一体しかいないのは変わらないしね」


 アレフは下手なことは言わないように努めた。そう、お互いの手の内は知っている……否、知っていた・・・・・。しかし、フューネルの進化をルディアは知らない・・・・。勝利の鍵はそこ・・にあるとアレフは考えたのだった。

 いくらフューネルが成長したと言ってもしっかりと準備したルディア相手に絶対勝てるとは言いきれない。隙を衝くのは当然の作戦だった。


「じゃあそろそろ始めましょうか?」


 アレフはその言葉に大きく頷いた。二人とも、右手を胸の前に掲げ、声を揃えて試合開始の合図となる言葉を放つ。


Diveダイブ onオン Stageステージ!」


 試合開始を告げる言葉が訓練場に響き渡ると同時に、三つの魔法陣が光り輝き動きだし、バトルステージが展開される。

 ルディアは右手を前に突き出し、自身の使い魔を召喚する。


「来たれ! ロックゴーレム!」


 ルディアの目の前に魔法陣が展開され、岩でできた黒い大きな人形が姿を現す。アレフの三倍はあるであろう大きさだ。レア度がレアのルディアが一番壁役として信頼を置いている使い魔だった。

 アレフはルディアが使い魔を召喚したことを見届けるといつも通り・・・・・魔法陣から飛び出し、ルディアに向かい駆け出した。

 アレフ以外の召喚士は魔法陣から出ずに使い魔同士で闘わせ、自身は魔法で援護や攻撃をするが、アレフはそんなことは出来ない。魔法も使えず、使い魔はフューネルだけだったからだ。


「ウォッリャァァ!」


 勢いそのままにロックゴーレムに飛び蹴りをかますと、ロックゴーレムは少し後ろによろめく。

 アレフが着地すると同時に、体制を整えたロックゴーレムがアレフに向かって右手を振り下ろした。

 その拳をドガッと左手で受け止めたアレフに対し、ロックゴーレムは左手で掴みかかる。アレフはその手もガッシリと掴んで両者両手で押し合う形になった。


「いつもながらなんでロックゴーレムと力で張り合えるのよ? 人としておかしいわよ……」


 ルディアは呆れたようにボソッと呟き、魔法を放つ為精神を集中させる。ここでいつも通りに電撃の魔法を放ちアレフの体を痺れさせ、均衡を崩してロックゴーレムにボコボコにさせるつもりなのだ。

 そう、アレフの狙い通り・・・・にである。


「とりあえずこれでどう!?」


 そう叫んだルディアの突き出した右手の先からアレフに向かって、電撃の束が突き進む。

 それを見届けた瞬間、アレフはフューネルを召喚したのだった。


「今だ! グァッ!」


 アレフにルディアが放った魔法が直撃し、アレフは唸り声上げた。と同時に、魔法陣が展開されていく。

 その魔法陣から現れた使い魔の姿を見て、激しく動揺し、驚愕の表情を見せるルディア。そのルディアに向かって真っ直ぐに突進するフューネル。

 アレフの狙いはロックゴーレムとルディアの攻撃を一身に引き受けて、ルディアに隙を生じさせることだった。


「え、うそっ! キャッ! クゥッ!」


 フューネルの突進を受け、訓練場の壁に勢いよく叩きつけられたルディアは苦悶の叫びをあげた。と、同時にロックゴーレムの姿がかき消える。どうやらルディアの意識を刈り取ることに成功したようだ。

 それを見届けて全身の痺れに抗う必要の無くなったアレフは、フューネルを戻し、痺れが取れるまで休もうとゴロリと大の字になったのであった。

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