横断歩道

次の信号

横断歩道

とある横断歩道

お互いを器用に避けながら反対側へと渡っていく人達

赤に変わった信号で、男が一人立ち止まる


「すみません」


と、誰かが声を掛けてくる

振り向くと、歳のいい髪の長い女が一人


「ちょっとお願いしたい事があるんですけど」

「はい」

「一緒に渡ってもらってもいいですか?」

「はい?」

「横断歩道、一緒に渡ってもらってもいいですか?」

「あー、、はい、別に、いいですけど」

「ほんとですか?、ありがとうございます」


よく分からないけど、よく分からないから断りようがない

男は女の依頼をぼんやりしたまま引き受ける


「あの、手って繋いでも大丈夫ですか?」

「あーはい、大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

「ただ一緒に渡ればいいんですよね?」

「はい」


やっぱりよく分からない

女は男の手を握り

男は取り敢えず青を待つ


ほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわん


その遥か上空

見た事のない形の乗り物が宇宙から地球を見下ろしている


「どうします?」

「どうしようか」

「取り敢えず一旦向かいます?」

「取り敢えず一旦向かおうか」

「いきなり行って大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない」

「電話してみます?」

「大丈夫でしょ」

「向こうって誰かいるんですか?」

「いない」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫でしょ」


知らないアイドルの広告を背負ったトラックが騒がしく通り過ぎて行く

それを見送って赤から青に変わる信号

待っていた人達が一斉に動き出す


とことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことことこ


「UFOって見た事あります?」

「UFO?、いや、無いです」

「え、あります?」


突然辺りが眩しくなって男は反射的に目を瞑る

何となく体が軽くなったような気がして

左手はまだ繋いだまま


ほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわんほわん



終わり















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