第26話:マーダビー

1年目の夏


 大フライ試食試飲会から10日過ぎた。

 1度果実を実らせたもらった巨樹がたくさんの花を咲かせた。

 

 今は酒樽で醸造酒を造ってもらっているだけなのに。

 ギフトを使わなくても実りをもたらしてくれるのだろうか?


 過度な期待はしないようにした。

 1度あれだけたくさんの果実をもたらしてくれている。

 今はお酒を発酵させてくれている、無理はさせたくない。


 村に住む全員がキンモウコウたちと仲良くなった。

 金猿獣人族の幼子たちだけでなく、妖精たちとも仲が良くなった。

 妖精たちに危害を加えそうな魔獣を、全て狩るか追い払ってくれたからだ。


 そのお陰で、穀物を収穫する外周が一気に広くなった。

 同時に、果実を実らせる巨樹も外へ外へと広がった。

 大魔境とは聞いていたが、これだけの巨樹ばかり生えているとは思わなかった。


「大魔境に生えている樹は全てエンシェントトレントなのか?」


 俺は大魔境に1番くわしそうなエンシェントドワーフのヴァルタルに聞いた。


「そんな事はありえない、エンシェントトレントの数は少ない。

 エンシェントドワーフ並に珍しく、強大だ。

 大魔境全体でも2000はいないのではないか?」


「そんな少ないようには思えないのだが、大魔境は意外と狭いのか?」


「そんな事はない、とてつもなく広い。

 この辺の人間が世界といっている、人間の国々よりも広い。

 魔力と命力が濃すぎて空間が圧縮されている。

 人間たちが思っている周囲の広さよりも更に中が広い」


「だったら、なおさらおかしい。

 俺が実りや発酵を頼んでいる巨樹だけで千人以上いる。

 それだけ広いのならなぜ密集している?

 エンシェントトレントも集まって国にしているのか?」


「そんな話は聞いた事がない。

 エンシェントトレントが、近しい家族で集まるとは聞いている。

 だが、ここまで集まっているのは確かにおかしいな」


「外側に増えていたりしないよな?

 穀物畑と同じように、俺のギフトで増えて広がっていないよな?」


「……全く違うとは言い切れない、村長のギフトはとんでもないからな」


「エンシェントトレントに確かめられないか?」


「エンシェントトレントは特に特殊な生命体だからな……

 妖精族から巨大蚕に話をさせて、巨大蚕からエンシェントトレントに聞いてみるくらいしか思いつかない」


「そうか、そう言う方法があるなら聞いてみよう」


 俺とヴァルタルが話していると、シェイマシーナがやってきた。


「村長、マーダビーがエンシェントトレントの花の蜜が欲しいと言っています」


 シェイマシーナの後ろには、全長1メートルくらいの巨大ハチに率いられた、ミツバチくらいの群体がいる、ちょっと怖い。


「ミツを集めるのは小さいハチなのか?」


「はい、小さいハチは働きバチで、ミツを集めて食べます。

 花の咲かない季節のために、集められるだけ集めます」


「その大きいハチは兵隊ハチなのか?」


「よくご存じですね、この子たちは兵隊ハチです。

 働きハチを守る子たちです」


「そんな大きいとハチミツは集められないよな?」


「はい、戦う専門の子たちです」


「その大きさだとたくさん食べるよな?

 働きハチが集めて来たミツで養えるのか?」


「この子たちは肉食なので、自分たちの食べる分は自分たちで集めます」


「肉食、巨大蚕を食べたりしないか?!」


「大丈夫です、この子たちを私に紹介したのは巨大蚕です。

 エンシェントトレントに集まる害虫を一緒に退治するそうです」


「巨大蚕の紹介なのは分かった。

 だが巨樹はどう思っているんだ、嫌がってはいないか?」


「直接話をした訳ではありませんが、巨大蚕の話では気にしていないそうです」


「巨樹が気にしていないなら良いが……」


「村長、許可してやってください。

 マーダビーが集めるミツはとても貴重で美味しいのです。

 売る気はありませんが、人間の国で売れば1杯金貨1000枚で売れます」


「シェイマシーナはハチミツが好きなのか?」


「はい、大好きです。

 ハチミツに限らず、甘い物が大好きです。

 だからこそ村長が作られる果物が大好きで、果物から造られるワインが忘れられず、ここに住ませていただいているのです」


 そうか、そうなのか、甘い物が大好きなのか?


「甘い物が大好きなのは妖精だけか?

 金猿獣人族も甘い物が大好きなのか?」


「はい、金猿獣人族も甘い物が大好きです。

 だから金猿獣人族も私たち妖精も、蒸留酒よりも醸造酒が好きなのです」


「保存のために蒸留した酒に果汁を絞ったり砂糖を加えたりしたら、好きな甘さにできるだろう?」


「果物の汁を加えるのは好いですね。

 砂糖は大好きですが、とても高価なのです。

 昔のように盗むと村長に叱られてしまいますし……」


「そうだな、人間から盗んだらしかる。

 だが甘いのが好きで砂糖が欲しいなら、言ってくれればよかったのだ。

 砂糖の元になるサトウキビやサトウダイコンを作ってあげたのに」


「そうなのですか、お酒の原料以外は作らないかと思っていました」


「いや、酒の原料でなくても欲しい物は作るよ。

 それにサトウキビもサトウダイコンも酒の原料になるぞ」


「え、サトウキビとサトウダイコンからもお酒が造れるのですか?!」


「ああ造れるぞ、口で言っていてもしかたがない。

 砂糖もお酒も実際に作って見れば分かってくれるだろう、行くぞ」


「はい、村長!」

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