第15話:清酒と家畜と下着

 転生1年目の夏


 トムテたちが牛、豚、山羊、羊などの家畜の世話をしている。

 イモムシ、巨大蚕の世話もトムテたちがしてくれている。

 何だかんだあって、家畜を買う事になった。


「おいしい、凄い、こんな美味しい酒は初めてだ!」


 最初に来たトムテに清酒を飲ませたら絶賛された。

 少しだけ米を作って試作していた分だ。


「私にも試飲させてください。 

 美味しい、こんな美味しいお酒は初めてです、どうして隠していたんですか?!」


 家事精霊の代表が、俺の胸倉をつかみそうな勢いで言ってきた。


「ほんどうだ、こんな美味しいお酒初めてだ!」


「凄いですわ、こんな透明なお酒は初めてです。

 しかもワインとは違う美味しさがあります。

 どうして隠しておられたのですか?!」


 サ・リとジャンヌも一緒になって文句を言いやがる。


「隠していたわけじゃない、原料が穀物だから後回しにしていただけだ。

 それにジャンヌたちが穀物作りを嫌がったんじゃないか?

 そんな物を作るよりは、ワインの材料を作れと言っていただろう?」


「それは……」

「……」

「こんな美味しいお酒が造れると分かっていたら、反対しませんでしたわ」


 家事精霊とサ・リは黙ったが、ジャンヌは反論してきた。

 ジャンヌが1番お酒に執着している気がする。

 いや、いつの間にか地下から出てきて試飲しているヴァルタルの方が上か?


「イチロウ、手伝える事あるならなんでもやる。

 だからこの酒の原料になるモノを量産してくれ」


「育てるだけなら俺がやるが、刈り取りや脱穀、選別は手伝いがいる。

 刈り取る時に農具がいるのだが、1つもない。

 いくらなんでもエンシェントドワーフのヴァルタルに農具は頼めないだろう?」


「造る、この酒の原料を作るためならいくらでも造る。

 だが、イチロウがその気になったら、今からでも一面に原料を育てられるよな?」


「ああ、先が見渡せないくらい育てられると思う」


「だったら、俺が造るよりも買った方が早い。

 エンシェントドワーフの国で買えればいいのだが、金で売るような奴らじゃない。

 ここの酒を代価にすればいくらでも買えるのだが、それでは俺の価値が下がる。

 何より問題なのは、大魔境中のエンシェントドワーフが酒を目当てにやって来る」


「2000人ものエンシェントドワーフに来られるのは困る。

 だったら、切れ味が悪くても人間の国の農具を買おう。

 人間の国にいたトムテたちなら、農具くらい買えるだろう?」


「だいじょうぶです、農具なら今日中に買えます。

 手分けして必要な農具は全て集めます。

 だからこの酒の原料を作ってください、お願いします」


「分かった、今日中に目で見えなくなるくらい遠くまで穀物を育てる。

 ただ、人間の国から買うのは農具だけじゃない。

 酒を熟成させるための容器、カメも買って来てくれ。

 巨樹が蓄えてくれている酒を移し替えてやりたい。

 移し替えてやれたら、そこでまた酒を造れる」


 そんなやり取りがあって、穀物を大増産することになった。

 俺の知る限りの穀物酒を造る事になった。

 

「こんな美味しいお酒があるなら、もっとお肉が欲しいですね。

 部位の違いはありますが、イノシシばかりでは飽きます。

 羊や山羊、鶏や鴨も食べたいですよね?」


 ジャンヌに言われたが、その通りだ、俺も色んな肉が食べたい。

 肉だけでなく、チーズや玉子焼きも食べたい。

 だから家事精霊たちに買い物に行ってもらった。


 代金はあまっている金貨を使う気だったのだが、不要だった。

 お酒の原料になる物を売るのは猛反対されたが、他の物を売るように勧められた。

 

 果物や果実は日本基準なので良い値で売れると思うが、それ以外は素人が作ったものなので、大した値段にはならないと思っていたのだが……


「何を言っているのですか、大魔境産のメンとアサですよ!

 普通に造られているメンやアサに比べたら1000倍はします!


 バショウやクズは、メンやアサに比べると繊維が粗かったり弱かったりするとシルキーたちに言われて、最近では作らなくなっていた。


 衣類にするならメンだけあれば十分だとも言われた。

 それでもアサを作り続けているのは、実が食べられるからだ。

 薬の材料としてとても、アサは重要だと言われたからだ。


 ただ、インナーは巨大蚕の吐きだす糸で作った物ばかりになっている。

 アウターはメンで作っているが、メンの下着はもうはきたくない。

 1度巨大蚕の絹糸、シルクで作った下着を身に着けると、他は使えない。


「巨樹1本に5匹まで、全部で500匹までと言っていたが、増やして構わない。

 1本5匹は変わらないが、手入れをする巨樹を増やす」


 言う事をコロコロ変えるのは恥ずかしいが、着心地が好い服には代えられない。

 特に直接肌に触れる下着の着心地は大切だ。

 ジャンヌや金猿獣人族たちだけでなく、家事精霊たちも同意見だった。


 それと、巨大蚕には、巨樹の葉でなくてもよろこんで食べる物があった。

 俺が育てた穀物のワラや野菜をよろこんで食べた。

 貪るような食べ方をするからよほど美味しいのだろう。


 ただ、家畜を飼うようになって、藁も野菜も取り合いになった。

 最初は激しく争っていたが、今では住み分けている。

 基本巨樹が巨大蚕のごはんで、ワラと野菜が家畜のごはん。


 だが、巨大蚕も家畜も同じ物を食べ続けるのは嫌なようだ。

 仲良く交換して食生活を豊かにしている。


 家畜たちだけでなく、俺たちの食生活も豊かになった。

 まだ飼っている家畜を殺した事がない。

 殺されて肉になった物を人間の国から買っている。


 家畜からは乳と卵を手に入れている。

 乳はチーズ、バーター、ヨーグルトしている。

 卵は玉子焼きを始めとした料理に使っている。


 チーズはワインの味を格段に引き立ててくれた。

 イノシシバラベーコンも良かったが、多様な肴がある方が美味しく飲める。


 家事精霊たちの燻製を作る技術も日々上達している。

 肉を燻製するだけでなく、チーズも燻製してくれる。

 転生前より豊かな生活ができている気がする。

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