第11話:エンシェントドワーフ

 たっぷり塩を利かせたイノシシ肉はとても美味しかった!

 5日間サツマイモとナッツ、果物だけの食事だった。

 それだけに脂の乗ったイノシシ肉は美味しかった!


 ロースはもちろん、バラ肉やヘレ肉、モモ肉やウデ肉も美味しかった。

 だが、感動するくらい美味しかったのはホルモンだ。

 聖女ジャンヌが浄化魔術を使ったホルモンは、臭みが全く無く絶品だった!

 

 転生前には飲めなかったお酒が飲めるようになった。

 美味しい肉やナッツをお酒と一緒に食べる。

 憧れていた食生活が現実になった。


 300kgを超えるイノシシは1日では食べ切れない。

 食べるのが俺と聖女ジャンヌの2人だけだから特にそうだ。

 金猿獣人たちと妖精たちは、肉よりも果物やナッツの方が好きだ。


 300kgの7割が食べられるとして210kg

 1日2kg食べても100日かかる。


 聖女ジャンヌが氷魔術でイノシシ肉を保存してくれている。

 妖精たちが塩漬けしたイノシシ肉を燻製にしてくれた。

 熟成されたイノシシバラベーコンが待ち遠しい!


 各種のワイン、イノシシ肉、ナッツ、果物の3食を10日楽しんだ。

 食事を与えるだけでは、家事妖精を満足させられない。


 日本基準の果物だけでもよろこんでくれているが、約束したのは酒だ。

 よろこばせるだけでなく、満足してもらわないといけない。

 魔境で豊かな生活をするには、家事妖精の手助けが必要だから。


 俺はせっせと酒の原料になる果物を実らせた。

 ガサツな俺は、果物をそのまま酒樽に入れて発酵させていた。

 家事に高いプライドを持っている家事妖精たちは、余計な物をていねいに取る。


 彼らは酒の邪魔になる余計な物を全て取ってから酒樽に入れて発酵させた。

 新酒を試飲したが、これまでも美味かったが、比較にならない美味さだった!

 至高の酒、そう言っても過言ではない美味さだった!

 

 原料を発酵させる酵母は、アルコール度数が12パーセントまでは良く働く。

 12パーセントあたりから働きが悪くなる。

 18パーセントになると活動を停止する。


 俺は他ではなかなか造れない18パーセントの酒を造った。

 それがまたサ・リ、ジャンヌ、家事妖精たちによろこばれた。


「美味しい、美味しいうえに酒精も強い。

 もう二度と他のお酒では満足できないわ」


 サ・リがクルミやアーモンドを肴にワインを飲んでいる。

 果物を肴にするよりもナッツを肴にする方が好きなようだ。


「私もよ、このままここで暮らしても好い気がしているわ」


 ジャンヌは、俺と同じようにバラベーコンを肴にワインを飲んでいる。

 転生前の知識だと、バラベーコンにはビールの方が合うのかもしれない。

 でもサ・リとジャンヌはワインがあれば良いようだ。


 2人の中ではワインが高級品でエールが低級品なのだろうか?

 お酒が欲しくて家事をしている妖精たちもエールが欲しいとは言わない。


「誰か近づいてくる、凄く強い」


 昼食を楽しんでいると、家事妖精の1人が教えてくれた。


「食べられる獣なら私がお肉にしてあげる」


 ほろ酔いのジャンヌがモーニングスターを手につぶやく。

 どんな時にもモーニングスターを手放さないジャンヌは血の気が多いのか?

 いつの間にか俺の中では、聖女ではなく酒好きの戦士のイメージになっている。


「私のワインに手出しする奴は許さないわよ!」


「私も手を貸すわ、奇襲は得意なの」


 ジャンヌに続いてサ・リも戦うと言う。

 無言だが家事精霊たちも戦う気満々だ。


「俺はエンシェントドワーフのヴァルタルだ

 ここに美味しい酒があると聞いた、飲ませてくれるなら武具を造ってやる」


 見間違えようのない、ひと目でドワーフと分かる男が言った。

 戦いを挑むと思ったジャンヌが動かない。

 エンシェントドワーフが怖いのかな?


「エンシェントドワーフ、酒のためなら命も賭ける猛者。

 このお酒を飲んでみなさい」


 再起動したジャンヌが挑戦的だ!

 そんなに酒が大事なのか、もう絶対に聖女扱いしないからな!


 だが、酒好きなのは急に現れたエンシェントドワーフも同じだ。

 それにしても、酒のために命を賭けるなんて、転生前のドワーフ情報と同じだ。


 もしかして、スコットランドにも来訪神様が行っていたのか?

 この世界のドワーフをスコットランドに連れて行ったのか?

 それとも、スコットランドの人間をこの世界に連れて来た?


「うまい、とんでもなく美味い!

 2000年生きてきたが、こんな美味しい酒は初めて飲んだ。

 礼は言い値で払うから、ここにある酒を全部くれ」


「全部寄こせ、寝言は寝て言って!

 ここにいる精霊たちは、お酒が欲しくて住み込みで働いているの。

 1番安いお酒でも盃1杯金貨20枚よ。

 それでも全部払えるの?!」


「その気になれば永遠に生きられる、エンシェントドワーフをなめるな。

 酒樽100個でも200個でも……」


 エンシェントドワーフが壁一面に並ぶ酒樽を見て絶句した。


「分かったようね、酒樽100個200個なんて数じゃないのよ。

 1万個を超える酒樽があるの、それでも1杯金貨20枚で買えるの?」


「買えない訳ではないが、さっきから大量の酒が造られている気配がする」


「よく分かったわね、ここでは毎日新酒が造られているの。

 今あるお酒を全部買ったとしても、明日には同じだけの新酒ができるわ」


 ジャンヌ、それはいくら何でも言い過ぎた。

 確かに、もう100以上の巨木に名前がついている。

 中にはモモワイン1号とか、モモワインスーパーワンなんて名前の巨木もある。


 だがそれは、15日の間、朝から晩まで酒造りをがんばったからだ。

 酒を造る樽が足らなくなって、酒造り専門の巨木を何十も造ったからだ。


 それを全部売ってしまったら、さすがに1日では戻らない。

 収穫も酒造りも慣れたけれど、それでも7日はかかるだろう。


「……住み込みか、住み込みで働けば酒を飲ませてくれるのか?」


「エンシェントドワーフが全力で造った武具を対価に払うのでしたら、食事の時に好きなだけ飲んでもいいわ。

 試しにこのお酒を飲んでごらんなさい」


 聖女ジャンヌがそう言いながら差し出した酒は、モモワインだった。

 初めて飲んだ時に魅了されてしまったようだ。

 だが、モモワインは個性的過ぎると思う。


「造り手として1種の酒で評価されるのは嫌だ。

 ブドウで造ったワインの方が、他のワインと比べやすい。

 この赤ワインと白ワインも飲み比べてくれ」


 俺は、家事精霊に無理を言って皮を全部とり除いてもらった白ワインも勧めた。

 元になるブドウも、白ワイン用と念じて実らせた自信作だ。

 家事精霊も試飲してからよろこんで皮むきしてくれている。

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