第4話歌おうよ!
夕星 桜(ゆうづつ さくら)が隣に来てから約2週間俺はいつしか桜と仲良くなっていた。
そして隣に桜が来てからの俺は何度も天真爛漫な桜に励まされていた。
そんなある日突然桜の手術の日が決まった。
その日の夜桜が病室から脱走しちょっとした騒ぎになった。
外に出て桜を捜していると中庭からあの可愛いらしい歌声が聞こえて来た。
「桜!」
中庭の花壇を眺めながら歌を歌う桜を見つけ駆け寄る。
「明ちゃん…」
俺の名前を呼んだ桜の顔は不安に満たされ今にも泣き出しそうな顔だった。
「桜」
「ねえ、明ちゃん…明ちゃんはさどうしようもなく怖い時どうする?」
「どうした?手術怖いか?」
「ん…怖いんだ…手術が怖いんだ…だからここで不安なの歌って誤魔化してたの」
不安と恐怖に震えながらか細い声を出す桜に
「そっか…じゃあ、俺も歌お!いいよな?」
と手を差し伸べる。
「デュオがしたいってこと?しょうがないなぁ〜」
と口では言いながらも顔はとても嬉しそうなそして安心しきった笑顔を浮かべていた。
その後、手術は成功したが副反応により桜は体調を崩した。
息を荒くしながら小さく呟く。
「まだ…死にたくない」
俺は桜の隣で手を繋ぎ「大丈夫だ…大丈夫だ」と呪文のように言い続けることしか出来なかった。
そこから1週間桜は寝たきりの生活を送りやっと熱が下がった。
だが、今度は俺の心が挫けた。
バスケ部の友達が見舞いに来たのだ。
「また一緒にバスケしような」「待ってるからな」戻れるかも分からないのに皆も解っているだろうに希望をチラつかせ
「コーチに言われたから来たけどあれは無理だろ」
「だよなー。ま、アイツ別にエースでもないしそんな影響ないからいいけどな」
病室から出るとわざと聞こえるように陰口を吐いて帰って行った。
その日の夜俺は病室を抜け出して中庭で泣いていた。
「あ、ここに居た」
「桜…」
「夜に抜け出すとはいけない子だなぁ明ちゃんは♪」
「桜も人のことは言えないだろ?」
「まぁ、そうなんだけど」
「どうしたんだよ…夜にこんな所までまた熱ぶり返すだろ」
「いいじゃん。歌いたかったの」
桜が歌い出すと俺は入院初日に聞いた可愛らしい くもパワフルな歌声が辺りに響く。
「俺が入院初日に聞いた歌声は桜の歌声だったんだな」
「ふっふ〜ん♪やっと気付いたか!暗い顔してたからお見舞いのつもりで歌ってたの♪」
「めっちゃ励まされたよ…ありがとな」
と、俺はお礼を言うと
「それなら良かった」と笑顔で言い隣に腰を下ろす。
「あっ!んもぅ!!ふたりともこんな所に居たのね!」
「やばっ!斉藤ちゃ〜ん!ねっ?今日はもう戻るから!ねっ?許してー」
斉藤ちゃんと呼ばれた男は溜息を吐きながら「んもぅ!桜ちゃんは何回目の許してよぉ、それに貴方病み上がりでしょう!?」
と桜を叱りながら俺のことを見て
「明ちゃんも桜ちゃんの影響かしら?」
と聞いて来た。
「どうして?」と首を傾げると
「泣いてる顔してるからよ。桜ちゃんはね嫌なことだったり不安になったりするとここで歌ってるからね」と返って来た。
全く感の鋭い男だ。
その日から俺は桜の体調が優れない日や俺の心が挫けたりすると桜のように中庭から見える空を見上げ祈るように歌うようになった。
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