14 服
日々は何事もなく過ぎていた。
西村川洋品店で買った服は効果てきめんだった。
その服を着ると波留自身も気が引き締まる。
「制服みたいなものかしら。」
今日は濃い灰色地に薄いピンク色の花が所々に散っているワンピースだ。
派手なようだがしっとりとした感じがする。
自分がかけている黒い眼鏡に合わせたのだろう。
そしてマダムが選んだバレッタをつけると気持ちが冴えるのだ。
「不思議な店だったわね。」
そのおかげか波留の仕事も徐々に順調になり固定客もついた。
「今日は私の友達を見て欲しいの。」
以前占った女性が友達を連れて来た。
「ええ、ありがとうございます。」
波留の前には若い女性が二人座っていた。
一人は以前占いに来た彼女だ。
その人は横に座った友達に言った。
「波留さんは凄いのよ、私もすごく悩んでいたんだけど、
波留さんが言うように思い切って彼に告白したの。
そうしたらちゃんと一緒にあの人も考えてくれたのよ。
二人で乗り越えられそうなの。」
「うん、それ私も知ってる。
だから私も波留さんに見て欲しくて。」
以前占った彼女は家庭的に問題があり、
今付き合っている男性と別れた方が良いのかと言う話だった。
だが波留が占うとその男性はとても誠実な人の様だった。
だから正直に話してみてとアドバイスをしたのだ。
「良い方向に向かったのね。良かったわ。
そう言う結果が出ると私も嬉しい。」
そして波留は友達の子も占った。
彼女にトランプを持たせて念を込めてもらう。
そしてそれをハルが切り、カードを出す。
その間波留は彼女の記憶が少し見えるのだ。
「彼は今は付き合っている女性がいるわね。
結婚しているのかしら。」
「……そうです。」
波留はスペードのクィーンのカードに触れる。
そしてその横にはスペードの3だ。
「でもその関係はもうすぐ終わる。
とてもバランスが悪い感じがするわ。
そして彼にとってはしばらく辛い時期が来るみたい。」
目の前のカードにはスペードが多い。
そして最後のカードをめくるとクラブの7が出た。
「でも最後には徐々に物事が固まって行くの。
でもそれまでは彼は本当に大変かも。」
波留は占い主を見た。
「その彼をあなたは支えられるかしら?
もしそれを乗り越えたら新しい関係が結べると思う。」
彼女は俯いている。
そして顔を上げた。
「そうしたい。
私が好きな人はお店をやっているの。
今奥さんと揉めてる。そしてお店も色々と苦しくて……。」
「そこで働いているの?」
「ええ、奥さんとも知り合いだけど
奥さんが浮気をしてしまったようで。
確かにあの人はお店優先だったから
淋しかったのは分かるけど……。」
「でもこの子、不倫とかそんなものじゃないのよ。
純粋にあの人が作るものが好きって言っているの。」
「多分あの人は私の気持ちは知らないと思う。
でもそれでもいいからそばに居たい……。」
相談者の彼女は波留を見た。
目の前の二人はお互いの手を強く握っている。
彼女達が言っている事に嘘はないだろう。
「そう思うのなら大変だけど彼を人として支えてあげて。
そして道が開けて来たら
あなたの気持ちにも気が付いてくれると思う。
誰が自分を助けてくれたかって事にね。」
彼女は強く頷いた。
「波留さん、ありがとう。
これからどうするか気持ちが決まった気がする。
仕事は辞めない。
あの人の作るものがみんなに認められるように私も手伝う。」
二人は波留に頭を下げて部屋を出て行った。
波留が今彼女達に告げた事は真実なのか、
そして叶うかどうかは波留でもはっきりと断定は出来ない。
ただ、彼女達が向かう方向の
アドバイスの一つになればと彼女は思った。
そしてその根本には築ノ宮の一言だ。
善き事に力を。
より良きアドバイスをしたいと彼女は考えていた。
だがここしばらく彼女は妙に疲れやすくなっていた。
「風邪でも引いたのかな。」
少しばかり熱っぽいのだ。
体調が悪いと占い結果に影響が出るかもしれない。
集中できないのは良くないだろう。
今日は早めに仕事を切り上げようと思った。
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