~ばかいぬ~

夏目 漱一郎

第1話三匹の犬

我輩は犬である。




名前はまだ無い。












たぶん、これからもずっと。










S県N市にある、とある一軒家。


そこには、三匹の犬が飼われていた。


一匹はブルドック、もう一匹はドーベルマン、そして最後の一匹はボクサーである。


いずれも名前は無い、この家の主人がこの犬たちを呼ぶときには、”おい”とか”バカ犬”などと呼ぶのが通例だ。


この犬達の主人は50代の中年男性、ここではそのイニシャルを取って『Kさん』とよぶことにしよう。


飼い犬に名前を付けないのは、『人間が一方的に付ける名前なんて,所詮犬の世界ではあまり意味の無い事』だと思っているのか、それとも



《ただ面倒臭い》のかは不明である。



Kさんの家の庭は昔、自動車の整備工場を営んでいたため普通の家に比べてかなり広い敷地面積を有していた。


車が数台楽に駐車できる位はあるだろうか、その敷地の周りを塀で囲み、犬たちは自由に動き回れるようにそこで放し飼いにされていた。


ドーベルマン、ボクサーと、大型犬が庭をウロウロしていたらかなり怖いと思うかもしれないが、この犬たちは案外におとなしいのだ。


今まで人間に嚙みついた事はない。それどころか、めったに吠えることもない。


唯一あるのは、お菓子を持った子供からお菓子を取り上げようとする事。


器用にお菓子やアイスだけを咥えて、ひったくりをする。


食い意地だけは、人一倍 いや、《犬一倍》あるようだ。




Kさんの朝は早い。


毎日、まだ陽も昇らない朝の四時半にはもう起きている。


そんな早い時間から、ドーベルかボクサーのどちらかを散歩に連れていくのだ。


ブルはあまり散歩に連れて行かない。


歩くのは遅いし、百メートルも歩くともう疲れてその場にへたり込んでしまうからだ。


おまけに、年寄りで目が悪く、とんでもない方向へ行こうとする。


庭の中をチョコマカと歩いているほうが、ブルには性に合っているらしい。


Kさんは犬をリードに繋ぎ、もう一方の手には釣竿を持って近くの海岸まで散歩に出かける。


毎日このコースで散歩をしているせいか、二匹とも海が大好きである。天気の良い夏などは波打際まで行き、ビシャビシャになった体で砂浜を転がりまわるもんだから、体中砂だらけになってしまう。


そしてその体でKさんに擦り寄ったりするから、Kさんだって嫌がる。


そんな時、Kさんは



見事な《背負い投げ》で犬を海に向かって投げ飛ばす。


これを三回ほど繰り返すと、犬は近くに寄らなくなる。















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